安倍政権と正面から対決/学問の自由侵さないで/科研費問題ただす
要約
雑誌やインターネットなどの「反日学者には科研費(科学研究費)を与えるな」と攻撃するキャンペーンについて林芳正文部科学相は12日、参院文教科学委員会で「(文科省所管の)科研費は学術的価値を厳正に評価し、それ以外の要素に影響されることはない」との見解を示しました。吉良よし子議員への答弁。
吉良氏は憲法23条の「学問の自由」は科研費を使った研究でも保障されるかと質問。林文科相は「当然含まれる」と認めました。
吉良氏は「反日学者」キャンペーンに対し、法政大の田中優子総長が全国の研究者、大学人の言論が萎縮する可能性を憂慮し「自由で闊達(かったつ)な言論・表現空間を創造します」との声明を出し、明治大が支持を表明するなど、「学問の自由への介入は許さないとの声が広がっている」と指摘しました。
科研費の審査はピア・レビュー(同業者・研究者による審査)で行われています。その理由について文科省の磯谷桂介研究振興局長は「政治介入は科学研究をゆがめる」「科学研究の健全な発展にとって科学者コミュニティーの自立は不可欠」との日本学術振興会の見解を紹介しました。
吉良氏は、事実に基づかずに科研費を不正使用したなどと悪意の告発をした者への対処を質問。林文科相は「告発者の氏名の公表、懲戒処分、刑事告発がありうる」と述べ、吉良氏は「学問の自由を侵すことはあってはならない」と批判しました。
議事録
吉良よし子
学問の自由に関わって質問をしたいと思います。
憲法では、第二十三条で学問の自由を保障するとしております。では、その学問の自由とは一体何なのか。憲法制定当時の憲法担当大臣の答弁がありますので、事前にお知らせした部分を御紹介いただければと思います。内閣法制局。
政府参考人(内閣法制局第一部長 林徹君)
お答えいたします。
あらかじめ御指定のございました昭和二十一年七月十六日の衆議院帝国憲法改正案委員会における金森国務大臣の答弁は、次のとおりでございます。
「「學問の自由」ト申シマスルノハ、学問ヲスル方法又学問ノ内容、又学問ニ依ツテ得タル所ノ結論ト云フ面ニ亘リマシテ、国家ヨリ干渉ヲ受ケ、其ノ研究者ノナサント欲シ、定メント欲スル所ヲ妨ゲラルルコトガナイト云フ意味デアリマス、「保障する。」ト申シマスルノハ、公ノ権力ヲ以テ其ノ伸ビテ行ク本人ノ働キヲ妨ゲナイト云フコトデアリマス、言フマデモナク、此ノ憲法ノ建前ガ此ノ第三章ニ関シマスル限リ、概ネ個人ノ立場ヲ十分自由ニ伸バサセヨウ、外部カラシテ公ノ権力ヲ以テ之ニ対シテ制限圧迫ヲ加ヘナイ、斯ウ云フ趣旨デアリマス、目的ト致シマシテハ、斯様ニ致シマセヌケレバ人類全体ノ行クベキ本来ノ道ヲ誤ルニ至ルト云フコトヲ避ケント欲スル趣旨ヲ眼目トシテ居リマス、」。
以上でございます。
吉良よし子
非常に大事な答弁だったと思うんですね。つまり、学問の自由を保障するというのは、人類が誤った道に進まないために、権力者がこの学問に圧迫、介入させないために、それを保障するための学問の自由だと、それが必要なんだという御答弁だったと思うわけです。
戦前の歴史を振り返ってみますと、戦前の明治憲法下において、学問というのは国家に須要なる学術と位置付けられて、国家のための学問という理念で捉えられていたわけです。そういう下であの京大、滝川事件とか天皇機関説事件を始めとした数々の学問に対する弾圧などの苦い経験が起きた。それらを経て、戦後新しく定められた現行憲法に学問の自由というのが明記されたということなんだと思います。
つまり、国家権力による学問研究への弾圧や干渉は許されないと、そういう戦前の反省を出発点に、金森大臣の言う学問の自由の保障という考えが日本に確立したということだと思うんですけれども、林文科大臣、この金森大臣の当時の見解、今も引き継いでいるということでよろしいでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
憲法第二十三条におけます学問の自由は、憲法により広く全ての国民に保障されたものであり、特に大学における学問研究及びその成果の発表、教授が自由に行われることを保障したものである、こういうふうに承知をしておりまして、昭和二十一年の七月十六日における金森大臣における国会答弁の見解と相違ないものと考えております。
吉良よし子
相違ないというお話でした。つまりは、いかなる学問研究においても、その自由、学問の自由は保障されるべきというのは基本的なところだと思うんです。
ちなみに、日本学術会議の科学者行動規範にもこうあります。知的活動を担う科学者は、学問の自由の下に、特定の権威や組織の利害から独立して自らの専門的な判断により真理を探究するという権利を享受すると共に、専門家として社会の負託に応える重大な責務を有すると。そして、先日、五月十八日に文科省の科学技術学術審議会が公表しました科研費制度運営の適正化を通じた公正・透明な研究活動の実現に向けてという文書があります。この中でも、先ほどの日本学術会議の科学者行動規範に触れながら、その科研費の研究について、研究者の自覚と責任において実施する研究であることを周知するようにとあるわけです。
つまり、全ての研究について学問の自由が保障されるのは当然だし、それは科研費の研究についても例外ではない、科研費についても学問の自由は必ず保障されると、そういうことでよろしいですね、大臣、いかがでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
憲法第二十三条におけます学問の自由は、憲法により広く全ての国民に保障されたものであり、特に大学における学問研究及びその成果の発表、教授が自由に行われることを保障したものであると承知しております。
一般的には、大学等の研究者が、研究者の自由な発想に基づく研究を支援する科研費によって行う研究についても、当然に学問の自由の対象に含まれるものと考えられます。
吉良よし子
科研費の研究についてももちろん学問の自由は保障されると。大事な答弁だったと思うんです。
ただ、一方、この間、雑誌やインターネットなどなどで、反日学者には科研費を与えるなという、文科省や政府に求めていく、それを、そういうキャンペーンが張られているわけです。科研費を配分している日本学術振興会や文科省に対しても、昨年末以降、抗議の電話が数多く寄せられ、抗議デモなども行われていると聞いております。
私も、反日学者に血税を垂れ流す日本学術振興会に断固糾弾、襟を正せとするブログでそうした動画なども見ましたけれども、そうした抗議行動に対して担当者も困惑しているということをおっしゃっていました。
そもそも、ここで言われている反日というのが何を指すのか、私、全く分からないんですけれども、こうした事態を受けて、お配りしましたように、法政大学の田中優子総長は、全国の研究者、大学人の言論が萎縮する可能性を憂慮して、自由で闊達な言論・表現空間を創造しますとの声明を発表しました。また、それに続き、先日、六月に入って、明治大学の方でもこの田中総長の声明を支持すると表明する文書を発表するなど、学問の自由への介入を許さないという声が学者、研究者の中で広がっているわけなんです。
ここで改めて確認したいと思うんですけれども、その科研費の採択をする際の基準なんですけれども、この基準というのは研究者の政治的立場が一切基準にならないと思うんです。あくまでも学術的価値のみが判断基準となる、そういうことでよろしいでしょうか。
政府参考人(文部科学省研究振興局長 磯谷桂介君)
お答え申し上げます。
科研費の審査に当たっては、専門性の近い、十分な評価能力を有する複数名の研究者によって構成される審査組織が個々の研究の学術的価値を厳正に評価し、採択課題を選定しております。
吉良よし子
学術的価値を厳正に評価して採択課題を選択すると。
ちなみに、その科研費の採択率というのも決して高くなくて、平成二十九年度では、応募があったもののうちの二五%のみが採択されている、決して多いとは言えない。つまり、科研費に採択される研究というのは極めて学術的価値が高いものだと、そういう認識でよろしいでしょうか。
政府参考人(磯谷桂介君)
御指摘のように、科研費は平成二十九年度の例でございますが、新規の応募研究課題約十万件に対して、新規採択研究課題が約二万五千件と厳選されており、学術的価値が高いものが採択されているものと考えております。
吉良よし子
やはり学術的価値が非常に高いものが厳選されて採択されている、それが科研費の研究だということなわけです。
じゃ、その選定過程で、先ほどありました、複数の研究者によって構成される審査組織が複数段階にわたって厳正に評価をするということでした。この審査というのはそういう専門分野の十分な評価能力を有する専門的な研究者によって評価をされるということなんですけど、つまり同業者による審査だということなんですね。
この同業者による審査というのはピアレビューと言うそうなんですが、そのピアレビューで行っているということなわけですが、じゃ、なぜ、こうした研究を採択する際にピアレビューでなければならないのかというところなんですが、それについて、日本学術振興会発行の科学の健全な発展のためにの中で説明がされていると思います。その部分を御紹介いただきたい。
政府参考人(磯谷桂介君)
お答え申し上げます。
独立行政法人日本学術振興会編集委員会が作成した科学の健全な発展のためにテキスト版において、ピアレビューの役割は次のとおり記載されております。
科学研究の質を保証し向上させる上で、重要な役割を担うのがピアレビューです。ピアレビューとは、同業者、ピアが、審査、レビューすることであり、研究論文の学術誌への掲載や研究助成金の採択、研究者の採用や昇進、大学、研究機関の評価など、科学研究に関わるあらゆる場面で評価の中核になるものです。そのような場面で優れた判断を行うことができるのは科学者だけであり、科学研究に関わるあらゆる意思決定を科学者コミュニティーの手で行っていくことが重要だという認識に基づくもので、科学者コミュニティーの自律性の基礎となるものです。例えば特定の学説を政治的理由で支持するといった科学研究への政治の介入は、科学研究をゆがめることになります。科学研究の健全な発展にとって科学者コミュニティーの自律性は不可欠であり、そのためにもピアレビューが重要なのです。
以上でございます。
吉良よし子
この科研費の採択のプロセスの正当性がよく分かり、また要するに科学者コミュニティーの自律性の基礎となるのがピアレビューであり、そうした学問の自由の重要性、学問の自由と科研費の関わりもよく分かる説明だと思うわけです。
ここで大臣に伺いたいと思うわけです。科研費で研究している研究者について、政府と違う見解を持っていると、そういうことを理由にして、その研究者に科研費を与えるなというような要請がたとえどれだけあったとしても、どのようにあったとしても、文科省としてはそれには応じることはできないと、科学研究への政治介入は行わないという立場でよろしいでしょうか。大臣、お願いします。
国務大臣(林芳正君)
学術研究の振興そのものを目的とする科研費においては、研究者の自由な発想に基づく幅広い分野にわたる学術研究を支援しておるわけでございます。この審査に当たりましては、今お聞きいただいたように、専門分野の近い十分な評価能力を有する複数名の研究者によって構成される審査組織が、あくまでも個々の研究の学術的価値を厳正に評価し、採択課題を選定しておりまして、それ以外の要素によって採否が影響されることはございません。
吉良よし子
大事な答弁だったと思います。是非、文科省としては、どんな政治的な圧力があっても、それに屈せずこれまでどおり適切に科研費執行していただきたいと思うんです。
そして、最後にもう一点確認したいんですけれども、雑誌やインターネット上で、科研費には闇があると言っている人たちがいるわけですけれども、仮にそういった科研費の使い方で不正があったと、合理的な根拠もあるという場合に、その場合にでもちゃんと正式な窓口が一定あると。日本学術振興会では、科研費のみではないですけれども、そうした研究活動における公的研究費の管理の、監査のガイドラインを踏まえてそうした不正使用などに関する告発等受付窓口を設けていると、それホームページで告知しているというふうにあるわけですが、ただ、その不正の告発が、個別の研究者をおとしめようとするような、例えばですけれども、その制度の仕組みを理解しない、事実に基づかない、いわゆる悪意があるものであると判明した場合にはどのような対処がされるのか、その点もお答えください。
国務大臣(林芳正君)
文部科学省では、競争的資金に係る研究活動の不正行為、研究費の不正使用及び不正受給に関する告発受付窓口を設置をしております。
研究活動の不正行為に関する告発は研究活動における不正行為への対応等に関するガイドラインにのっとりまして、また研究費不正に関する告発は研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドラインにのっとり、被告発者が所属する調査権限を有する研究機関において調査を実施することになります。調査の結果、不正の事実がなく、悪意に基づく告発であったことが判明した場合には、被告発者が所属する研究機関の判断により、告発者の氏名の公表、懲戒処分、刑事告発等を行うこともあります。
吉良よし子
悪意に基づく告発だと分かった場合には刑事告発、場合によってはあり得るということだと思うわけです。
いずれにしても、科研費の仕組みもよく分からないまま個別の研究者や研究に対して攻撃をしたり、また学問の自由に対する不当な介入というのは絶対にあってはならないと。それは、とりわけ政治的な立場、国会議員などであれば当然だと思うわけです。もう絶対に許されない行為だと言いたい。学問の自由を不当に侵害するようなことは絶対にあってはならないし、文科省には是非ともこの学問の自由を保障するという立場、是非とも貫いていただきたいということを強く申し上げまして、質問を終わります。