「稼ぐ文化」が狙い/改定文科省法に反対
要約
文化庁の京都移転に向け文部科学省と文化庁の任務に「文化に関する施策の総合的な推進」を加える文科省設置法改定案が8日、参院本会議で可決、成立しました。日本共産党は「安倍政権が掲げる『稼ぐ文化』は、文化芸術基本法の基本理念をゆがめるものだ」として反対しました。
採決に先立つ7日の参院文教科学委員会で吉良よし子議員は、骨太方針2018原案に「稼ぐ文化への展開」と明記するなど経済への文化利用が狙いだと指摘。「時の政権を優先して表現の自由や文化芸術を行う者の自主性を損なってはならない」と強調しました。
吉良氏は、林芳正文科相が6日の本会議で、同改定案で博物館の所管を文化庁に移すのに伴い、全分野の学芸員に「管理と運営にかかわる研修」を実施すると吉良氏に答弁したことに言及し、多忙な学芸員に「観光振興」の研修を課すのかと質問。林文科相は「希望のあった学芸員が対象」として必修とは言いませんでした。
吉良氏は、静岡・浜松博物館はわずか5人の学芸員で切り盛りし、「あらゆる意味で限界を超えている」と専門家に指摘されていると述べ、「こういう状況の改善こそ行うべきだ」と要求。林文科相は「学芸員の活動ができるよう、国の予算をしっかり確保し、文化政策の推進に当たっていく」と答えました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
昨日に引き続き、法案について伺いたいと思います。
まず最初に、文化政策の振興について大臣に伺いたいと思います。
大臣は、昨日の本会議で、観光や町づくりなどの分野と連携し、文化の経済的価値を高めていくような施策を推進していく旨を述べられました。文化芸術基本法では、文化芸術は、それ自体が固有の意義と価値を有すると書かれております。文化が持つ固有の価値というのは、つまりは経済的価値だけではないはずで、経済的価値以外の価値についても政策の振興に当たっては尊重していくと、そういうことでよろしいでしょうか。
国務大臣(文部科学大臣 林芳正君)
昨日の本会議では、観光や産業などの分野と連携し、文化の経済的価値を高めていくような施策の推進を図るだけでなく、あわせて、国際交流や福祉、教育などの分野との連携によって、国際貢献や共生社会の実現、次世代育成など、様々な社会的価値をもたらす取組も進めていく必要があると、こういうふうに答弁をさせていただいております。
文化芸術基本法では、その前文におきまして、文化芸術は、それ自体が固有の意義と価値を有するとされておりまして、また、基本理念においても、文化芸術に関する施策の推進に当たっては、多様な文化芸術の保護及び発展が図られなければならないことなどが示されております。文化庁の今後の文化政策の展開に当たっては、今先生から御指摘がありましたように、文化の様々な価値を尊重し、幅広い文化芸術の充実を図ることが重要だと考えております。
今後とも、文化芸術基本法の理念、またそこで示されている文化の様々な価値を踏まえ、文化芸術立国の実現に向けて取り組んでまいりたいと思っております。
吉良よし子
多様な芸術を保護する、幅広い文化芸術をというお話がありました。
ただ、おととい公表された骨太方針二〇一八の原案見てみますと、その中には、やはり稼ぐ文化という言葉があり、稼ぐ文化への展開、文化芸術産業の育成などにより文化産業の経済規模の拡大とか文化分野における民間資金、先端技術の活用などと、やはり文化の経済的価値ばかりが強調されているのが見受けられます。そういうところを見ると、やはり安倍政権の文化政策というのは、経済政策に文化芸術を利用するというものだと言わざるを得ないんじゃないかと思います。
改めて、時の政権の政策を優先して表現の自由とか文化芸術を行う者の自主性損なうことはあってはならないということを強く申し上げまして、次に、博物館の所管を文化庁に移管することに関わって伺います。
昨日も申し上げましたけど、本法案では、博物館に関する事務を文化庁に移管する、博物館の更なる振興を図るということですけれども、じゃ、この更なる振興とは何かという私の昨日の質問に対して大臣は、博物館法第二条を引いて、資料を収集し、保管し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養等に資するために必要な事業を行う施設と答えました。
ただ、お配りした資料を見ていただきたいんですけれども、この章には、その後に、あわせてこれら資料に関する調査研究をすることを目的とする機関ということも書かれているわけです。この部分も博物館含めた社会教育施設に課された重要な使命だと思いますが、もちろんこの調査研究も振興を図るべき対象ということでよろしいでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
今委員からおっしゃっていただいたとおり、この博物館法二条におきましては、博物館とは、資料を収集、保管し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究を行う施設と、こうされておりますので、委員御指摘の資料に関する調査研究を行うことも博物館の目的に含まれていると認識しております。
吉良よし子
調査研究も含まれているということでした。
ちなみに、お配りした資料には含まれていないんですけれども、社会教育法第三条では、国と自治体に対して、全ての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成するように努めることを求めているわけですから、博物館のみに課された資料の調査研究という目的は、この実際生活に即する文化的教養を高め得る環境の醸成に欠かせないんだということを私強く申し上げたいと思います。
そして、もう一点、次伺いたいのが、博物館法第四条、学芸員のところなんです。この博物館に専門職として学芸員を置くことを定めているわけですけれども、四条で。その学芸員というのは、博物館の職員というわけではなくて、資料の収集や保管、展示、調査研究などの専門的事項をつかさどるとされているわけです。
ところが、昨日の本会議で大臣は、全ての分野の学芸員に管理と運営に関わる研修を実施するということを明言されました。また、大臣、繰り返し観光等の連携ということも口にされているわけですけれども、二〇一六年に出された明日の日本を支える観光ビジョンの中では、文化財の観光資源としての開花と書かれた項で、学芸員や文化財保護担当者に向けて観光振興に関する講座の新設を行うということも書かれております。
なぜこうした研修が必要なのかと。博物館法のうたう学芸員の本務に加えて、管理運営とか観光振興を担わせることが博物館の更なる振興ということになるというお考えなのか、お答えください。
国務大臣(林芳正君)
学芸員は、博物館法第四条におきまして、学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる専門的職員とされております。
また、博物館は、資料を収集、保管、展示、調査研究し、来館者の学習やレクリエーション等に資するために必要な事業を行う施設とされておりまして、例えば来館者の関心に配慮した資料選定や国籍に配慮した多言語化を工夫するなど、観光客を含む多様な来館者のニーズに応える環境づくりという観点に立ちまして学芸員が職務を果たしていくことも重要であると、こういうふうに認識をしております。
こうした趣旨から、文部科学省としては、各博物館から希望のあった学芸員を対象に、博物館の管理運営、博物館における教育普及、文化財などの資料の収集、保管、展示、調査研究などに必要な研修を行い、社会のニーズに応じた博物館づくりを推進してまいりたいと思っております。
吉良よし子
社会のニーズに応えるためという御答弁だったと思いますが、先ほど、希望のあった者にということはありました。
ここで一点確認しますけれども、先ほどの観光振興について学ぶ講座とか博物館の管理運営に係る研修というのは、学芸員全てに必修化、強制するということを考えているのかどうか、その点お答えください。
国務大臣(林芳正君)
先ほど少し触れましたように、文部科学省としては、各博物館から希望のあった学芸員を対象に、多様な来館者の視点に立った博物館の管理運営の研修を実施し、社会のニーズに応じた博物館づくりを推進してまいりたいと、こういうふうに考えておるところでございます。
吉良よし子
希望のあったということでしたけれども、私も学芸員自らの意思でこうした研修や講座を受けることまで否定するものではありません。しかし、あくまでも学芸員の本務は資料の収集や保存と調査研究だと思うんですね。
昨年五月、NHKニュース「おはよう日本」で報じられた博物館への取材に応えた北九州市立いのちのたび博物館の館長はこのように話しているんです。資料を集め、保存してデータベースを作る、そして研究する、その結果を含め資料を展示して、皆さんに楽しんでいただく、この四つのパターンがうまく回ればいい線に行くと言っていると。実際、この博物館では地元の生物の標本や歴史資料などを展示しているわけですが、年間五十万人が訪れる人気の博物館だということなんです。
そういう博物館で館長が力を入れているのが、観光振興の研修とかということではなくて、やはり学芸員の本務に基づく活動にこそ力を入れていると。それが功を奏して五十万人という結果に結んでいるというところを見れば、研修必修化とか押し付けとかではなくて、やはり本務を支えるということが何よりも重要だということを私強く申し上げたいと思うんです。
また、都内の美術館で働くある学芸員の方もおっしゃっていたんですけれども、やはり本務のほかに社会教育施設としての美術館の役割も重視して働いていらっしゃるという。学芸員としては、そのときの流行だけでなく、自分たちの研究や発見を生かし、さらに来館者の記憶に残る展覧会を開きたいという気持ちがあると、それが学芸員の腕の見せどころだということもお話しされていたわけです。
そういう意味では、学芸員が自らの知見や調査研究活動に裏打ちされた自由な発想で事業を行えるようにすることこそが社会教育施設としての博物館の更なる振興ということになるのではないかと。今すべきなのは、そうした自らの知見、専門性を発揮した調査研究活動に学芸員の皆さんが当たれるよう、また地域住民に対して自らの研究成果などを還元するなどの事業がちゃんと行えるように博物館の予算を増額すること、そして活動にふさわしい学芸員の増員、配置、これが必要だと思うんですけれども、大臣、その点いかがでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
我が国の博物館は、歴史、芸術、自然科学等に関する資料を収集、保管をして展示等を行う本来の役割や機能に加えて、地域の文化振興の拠点となることが期待をされておるところでございます。
この法案におきまして、博物館法を含む博物館全般に関することを文化庁に移管しまして、地域の多様なニーズに応えられますように、全ての博物館を対象に、地域における標本や文化財などの博物館資料の調査研究、展示などで特色のある取組を支援するとともに、全ての分野の博物館の学芸員を対象とした資料の収集、保管、展示、調査研究などに必要な研修を実施してまいりたいと思っております。
あわせて、文部科学省としては、地域の文化振興の拠点としての博物館の中核を担う学芸員の体制や学芸員の更なる資質向上等の在り方について、博物館関係者からの意見を丁寧に聞きつつ、必要な施策の検討を行い、改善に取り組んでまいりたいと考えております。
吉良よし子
必要な施策の検討とおっしゃいますけど、やはり予算と人手は欠かせないと思うんです。
先ほどのNHKが全国の博物館に行ったアンケートの結果を報じているものによると、収蔵品の修復や劣化防止対策について、必要な数が把握できていない、作業の予定が立っていないと回答した施設が多かったという、その背景には人手と予算が不足しているという話があるわけです。浜松市の博物館では、収蔵庫の確保に苦慮していると。というのは、その間、地域の様々な博物館の統廃合が相次いでいて、もうこの浜松市立の博物館に全部その収蔵品が集まっていると。その場所が、博物館内に置けないので仮置場というのを市内に十三か所も配置していて、車でも二時間掛かるような場所に置いてあると。僅か五人の学芸員がその収蔵施設の見回りを行い、資料の調査や整理、そして展示、そして教育と山積みの業務を切り盛りしているという。もう本当こうした事態の中で、学芸員が頑張って成果を上げていくということもできるが、今の状況はあらゆる意味で限界を超えていると専門家の方が指摘しているわけです。
こういう状況の改善、解消こそ文科省の責任で今行うべきと思いますが、大臣、いかがですか。
国務大臣(林芳正君)
先ほど先生からお話がありましたように、現場、これはどういう、それぞれの博物館が国立であるのか地方の公共団体立であるのか、いろんな、ケース・バイ・ケースだと思いますが、我々、先ほど申し上げたような施策を行いながら、しっかりと現場で学芸員の皆様中心にこの活動ができますようにこの施策の推進に努めてまいりたいと思いますし、国の予算に関しては、しっかりと予算を確保してこの文化政策の推進に当たってまいりたいと思っております。
吉良よし子
予算を確保してというお話ありましたけど、本当に今の現状では足りていないという、そういう声があるわけですから、やっぱりちゃんとやっていただきたいし、やはり、私、そういう中で、博物館を社会教育から外してしまうというところに対しては本当に懸念があるわけです。しかも、社会教育課もなくしていくという話もある。
昨日、大臣、社会教育に対するニーズ高まっているとおっしゃっていましたけど、であれば、やはり社会教育課というのはちゃんと残しておくべきだったと私は強く言いたいと思いますし、その廃止はやめるべきであるということも申し上げまして、今日は時間がないので、これにて質問を終わらせていただきます。
吉良よし子
日本共産党を代表して、文部科学省設置法案に対する反対討論を行います。
反対する第一の理由は、安倍政権が掲げる稼ぐ文化を推進する文化政策が文化芸術基本法の基本理念をゆがめるものだからです。
安倍政権は、骨太の方針二〇一七や文化経済戦略などの中で、投資の促進を通じて文化と経済の好循環を実現、経済拡大戦略を進め、文化財を活用した観光振興など、稼ぐ文化の推進を掲げています。本来、それ自体が固有の意義と価値を有するはずの文化芸術を稼ぐ資源、産業としてのみ位置付け、その他を排除する、また、時の政権の経済政策を優先させ、文化芸術基本法で文化芸術の礎と位置付けされている表現の自由や文化芸術を行う者の自主性を損なうことはあってはなりません。本改正案は、こうした安倍政権の稼ぐ文化中心の文化政策の下で機能強化を進めるというものであり、認めるわけにはいきません。
また、投資を呼び込める文化芸術資源で資金を稼ぎ文化芸術の振興に回す、カジノの納付金を文化振興に充てるなどというやり方も容認することはできません。今、文化庁や文部科学省がすべきことは、文化芸術基本法の立場で文化政策を進められるよう、文化予算を抜本的に底上げすることです。
反対する第二の理由は、本法案で社会教育施設である博物館に関する業務を文化庁に移管することなどにより、社会教育の振興、理念の実現を図ることができなくなる懸念があるからです。
教育基本法では、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現を掲げ、社会教育施設の設置や社会教育の振興に努めることを国などに求めています。それなのに、本法案で、博物館業務を文化庁に移管するだけでなく、今回の法改正と同時期に社会教育課も廃止するといいます。
博物館、図書館、公民館など社会教育施設の所管をばらばらにしてしまっては、社会教育の振興が図れるとは思えません。社会教育を振興する立場に変わりがないというならば、社会教育課の廃止はやめ、社会教育の推進に必要な体制づくりこそ進めるべきであるということを申し上げ、討論といたします。