文化財保護法案/〝保護より活用ありき〟/懸念
要約
吉良よし子議員は5月31日の参院文教科学委員会で、文化財保護法等改定案について法の目的が文化財の保護より活用ありきへの変質が懸念されるとただしました。
吉良氏は「関係者から『稼ぐ文化』には予算がつくが、そうでないと予算がつかないのではと懸念の声がある」とし、国として保存修理の予算を増やすよう求めました。林芳正文科相は「必要な予算の確保に取り組む」と応じました。
吉良氏は、安倍首相が1月の施政方針演説で「十分活用されていない観光資源が数多く存在する。文化財保護法を改正し、各地の文化財の活用を促進する」と述べているとし、「文化財は『観光資源』としての価値しかないと言わんばかりだ」と批判しました。その上で、文化財保護法は戦争で文化財が失われた痛苦の反省から生まれたと述べ、「法律の目的をゆがめてはならない」と主張しました。
吉良氏はさらに、開発行為を担う首長部局に文化財保護行政を移すことを可能としたら「開発行為と文化財保護との均衡」が図れないと指摘。林文科相は、地方文化財保護審議会を置くので中立性が担保されると述べましたが、吉良氏は「文化財保護と開発行為は対立する。文化財の保護より開発や活用という考えは認められない」と強調しました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
では、法案に関わって、まず、文化庁予算に占める文化財の保存修理、整備等に関する予算について伺いたいと思います。
本年度予算に占める文化財の保存修理等の関係予算は三百七十六億円と。文化全体の予算が一千七十七億円なので、うち約四割ということですが、ここ数年、同水準の規模を維持しているということだと思いますが、これでその文化財の保存修理、整備に十分足りているという認識でよろしいのですか。大臣、いかがでしょう。
国務大臣(文部科学大臣 林芳正君)
この国民共通の貴重な財産であります文化財、これを確実に次世代へ継承するために、平成三十年度予算におきましては、文化財の保存修理、防災・防犯対策等を支援する経費として、今委員から御紹介いただきましたように三百七十六億円を計上しております。これ五年前と比べますと二十五億円ほど増えております。また、対前年度では十億円増となっておりまして、文化財所有者等が適切に文化財の保存修理に取り組めますように、その充実を図ってきているところでございます。
文化庁としては、今回の法改正も踏まえまして、引き続き文化財を次世代に継承していく上に必要な予算の確保に取り組んでまいりたいと思っております。
吉良よし子
必要な予算の確保をしていきたいということでしたけれども、様々現場では本当に予算が足りないという悲鳴が上がっているわけですね。
お配りした資料を御覧いただきたいんですけれども、二〇一五年七月の朝日新聞大阪版では、修理コスト苦しい寺社、法隆寺は拝観料値上げということを報じていまして、二〇一五年の一月に法隆寺が拝観料を大人千円から千五百円へと値上げしたと。五重塔や釈迦三尊像など国宝、重要文化財だけで三千点近くあり、毎年のように修理が続く、国宝には国と県から半額余りの補助が出る一方で、修学旅行生は減少傾向で、どうしても修理費用を確保する必要があったから値上げをしたんだ、拝観料の、という理由だということなんですけれども、この記事では、公益財団法人京都古文化保存協会の話として、未指定だが貴重な文化財を持つ小規模な寺社が多い中、資金難で修理に手が回らなかったり、応急処置で済ませたりするケースがあるとして、所有者だけで守り伝えるのは限界だ、国としても手厚い補助で守ってほしいと、そういった声が紹介されています。
また一方、本改正案に関わって、関係者からは、いわゆる稼ぐ文化には予算が付くけれども、そうじゃない文化財には予算が付かないのではないかという懸念の声も出ているわけです。
先ほど充実させていくというお話があったわけですけれども、我が国の貴重な文化財、維持し、次世代に継承していくためには、たとえ未指定であっても、また稼ぐかどうかというのは関係なく、保存修理を必要としている文化財全てに計画的に補助を付けられるような予算を確保していくべきと考えますが、大臣、いかがでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
今回の法改正によりまして、地域社会総掛かりで文化財の保存、活用、これを総合的、計画的に進める仕組みが整備されることとなると。このことを踏まえまして、この仕組みが円滑に運用されまして、文化財を次世代に確実に継承していく取組につきまして、引き続き必要な予算の確保に取り組んでまいりたいと思っております。
吉良よし子
もう一つ資料も用意しました。二〇一五年十二月の朝日新聞大阪版ですけれども、文化財保全、ネットで資金集めをしたというものですけれども、これ目標額、三千万円を目標にして奈良県の王寺町の達磨寺の方丈の修復費を集めようとしたんですけれども、実際には七十二人から三十三万円しか集まらなかったということで、国や県の補助金拡充してほしいと、もう本当切実な声が出ているわけなんですね。
先ほど仕組みはつくったという話で、未指定のものも含めて保存、活用の計画を持つということですけれども、であれば、それを可能とするだけの予算措置というのは当然必要なわけですから、国は保存、修理に係る予算、文化予算そのものもですけど、抜本的に増やすように強く求めたいと思います。
そして、次に移りたいと思うんですけれども、先ほど来、稼ぐ文化に関する懸念があると私も申し上げましたし、ほかの委員らからも懸念が申し上げられております。また、保護中心ではなく活用を位置付ける大きな転換だというような話もありましたけれども、この本法案における文化財の活用の考え方について伺いたいと思います。
では、まず、政府、文科省というのはこの文化財の活用についてどのようにこの間述べているのかというところで、二〇一六年四月に策定された文化財活用・理解促進戦略プログラム二〇二〇、前書きの最初四行分、そして二〇一七年十二月の文化経済戦略の文化財の活用の部分の事前に通告で指定した部分、御紹介いただければと思います。
政府参考人(文化庁次長 中岡司君)
御指定の部分だけを読み上げさせていただきます。
文化財活用・理解促進戦略プログラム二〇二〇には、「全国各地において長く守り伝えられてきた有形、無形の文化財は、地域の誇りであるとともに、観光振興に欠かせない貴重な資源である。ついては、観光資源としての戦略的投資と観光体験の質の向上による観光収入増を実現し、文化財をコストセンターからプロフィットセンターへと転換させる必要がある。」と記載されております。
文化経済戦略には、「文化芸術資源の活用については、その特性や適切な保存に十分配慮しつつ、積極的な公開・活用を推進するため、文化財保護制度の見直しを行う。」、また、「文化財の観光やまちづくり等への積極的な活用を促進するため、文化財を中核とする観光拠点の形成や、史跡等の大型文化財の公開や活用の機能充実のための整備を促進する。」と記載されております。
吉良よし子
その文化財の活用に関わる部分、読み上げていただいたんですけれども、もう全部、文化財を観光資源として位置付ける、そして活用するんだということばかり言っているわけですね。まるで文化財とは観光資源としてでしか価値がないようにも読めると思いますし、今年一月の施政方針演説で安倍総理自身も、「我が国には、十分活用されていない観光資源が数多く存在します。文化財保護法を改正し、日本が誇る全国各地の文化財の活用を促進します。」と。文化財イコール観光資源で活用だということを繰り返しおっしゃっているわけで、やはりそこはおかしいんじゃないかと思うんですね。
改めて、私も文化財保護法五十年史というのを読んでみました。そうしたら、この文化財保護法、できたのは背景に何があったか。戦中戦後の混乱の中で文化財の保存が軽視されて文化財が失われてしまった、そういう痛苦の反省の下で、当時の参議院の文部委員会で議員立法としてできたのがこの法案と。それで、中で言われているのが、建造物や絵画、彫刻などの有形文化財、演劇や工芸技術などの無形文化財、史跡や天然記念物などの文化財を統一的に保護しようと、そしてその修理や維持に国庫支出を認めるなどの内容を盛り込むとして作られたと記されているわけで、つまりこの法律は、第三条にあるように、我が国の歴史、文化等の理解のために欠かせない文化財の保護と維持、保全を何よりも重視して作られたものなわけです。
先ほど第一条の御紹介もありましたけど、その活用をする場合であっても、国民の文化的向上や世界文化の進歩に貢献するために活用するんだということが書かれているけれども、今回の改正では何か観光資源としての活用ばかりが前に出てきてしまっているのではないか。これではこの第一条に言われる国民の文化的向上、世界文化の進歩、これが大きくゆがめられてしまうのではないかと思わざるを得ないわけですけど、この改正によって法律本来の目的、ゆがめることはあってはならないと思うのですが、大臣、いかがでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
今御紹介いただきましたように、この文化財保護法第一条において、「この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする。」と、こう規定しておりまして、この目的は今回の改正において何ら変更を加えるものではありません。
一方で、過疎化ですとか少子高齢化、こういったことを背景として、文化財が滅失したり散逸したりする、また、担い手不足が起こってこれへの対応が喫緊の課題となっておりまして、やはり未指定を含めた地域の様々な文化財を町づくり等に生かしながら次世代に確実に継承することができるように、地域社会総掛かりで取り組むことが必要となっております。
今回の改正は、こうした社会状況の変化を踏まえまして、新たに地域における文化財の計画的な保存活用の促進、地方文化保護行政の推進力の強化、こういうものを図るものでございまして、この文化財保護法の目的を達成するための仕組みを充実させるものでございます。
吉良よし子
ゆがめるものではないということでしたけれども、例えば二〇一七年の骨太の方針でも、稼ぐ文化への展開を進めるということがうたわれている。一方で、保存という言葉はほとんど出てこないんですね。先ほど来の質疑の中では、保存、保護があってこその活用というお話もありましたけれども、もちろん保護あってこその活用なんですけど、活用できないものは保護しないというふうにも聞こえなくもないわけで、だから、関係者から、稼ぐ文化にしか予算が付かないのではという懸念の声も上がっていると思うんですね。
そこは看過できないと私は言いたいと思いますし、最後に、この文化財保護行政を首長部局に移管することを認める点についても、先ほどもありましたけれども伺いたいと思うんですけれども、これ二〇一三年に、今後の文化財保護行政の在り方についてというのが出されておりまして、その中では、文化財保護行政については、その専門的、技術的判断が実際の運用においても担保されるよう、首長部局や開発事業者などが行う開発行為と文化財保護との均衡を図る必要があるというふうに書かれているわけです。つまり、ここでいえば、首長部局というのは開発行為を行う側として分類されているわけですけれども、その首長部局に文化財保護行政を移した場合に、どうやってその開発行為と文化財保護との均衡を図っていくのかと。そこが私どうしても納得いかないんですが、この首長部局に移行された場合、開発行為と文化財保護との均衡、どうやって保たれるというのでしょうか、大臣、お答えください。
国務大臣(林芳正君)
地方におけます文化財保護の所管につきましては、今委員もお触れになりました平成二十五年の文化審議会の検討におきまして、どういった部署が所管するとしても、文化財保護に求められる専門的、技術的判断の確保等の留意事項、いわゆる四つの要請でございますが、これに対応できるような仕組みが必要であるとされたところでございます。
一方で、近年の地方公共団体における景観、町づくりや観光など、ほかの行政との一体的な施策推進の必要性や地方公共団体からの要望等を踏まえまして、文化審議会と中央教育審議会において専門的な見地から検討が行われたところでございます。この審議会において、地域資源を活用して地方創生に取り組むなど地方の状況が変化してきておりまして、地方の判断により事務を選択制とすることに賛成であると、こういった意見、それから、開発行為と文化財保護はこれまでの調整の歴史も長く、開発関係者にも一定の理解が得られてきているといった意見がございました。
また、審議会における地方公共団体へのヒアリングにおいても、地方の判断によって選択的に実施することを可能としてほしいと、こういう意見があったところでございます。
このほか、地方公共団体に対する調査において、政治的中立性、継続性、安定性の確保がどのようにして図られるのか不安であると、こういう意見もあったところでございまして、こうした審議の結果、昨年の文化審議会第一次答申及び中央教育審議会地方文化財行政に関する特別部会報告におきまして、文化財保護に関する事務を首長部局に移管する場合には、現在任意設置とされている地方文化財保護審議会、これを必置とするとともに、地域の実情に応じて、専門的知見を持つ職員の配置促進や研修等の充実、情報公開など文化財行政の透明性の向上、さらには、学校教育、社会教育との協力関係の構築などに総合的に取り組むことによって、この四つの要請に対応できるような環境の整備を図ることが必要である、この旨が提言をされたところでございます。
今後は、国において、こうした趣旨を各地方公共団体に周知をいたしまして、適切な対応が図られるよう指導、助言に努めてまいりたいと考えております。
吉良よし子
長々おっしゃられたわけですけれども、地方文化財保護審議会などを必置するし大丈夫だということであったと思うんですけれども、この審議会というのは首長部局がその人事を決めるということであって、やはり一方的な判断、偏った判断になりかねないと思うんですね。文化財保護と開発行為というのは必ず対立するんです。
今お配りした資料があるわけですけれども、配付した名勝及び史跡に指定された小石川植物園周辺の道路拡幅なんというのはその一例で、七十一本の江戸時代から続く植生、樹木が伐採されて開発が行われていると。もう本当にそういう中で、開発と保護というのが対立する中で、慎重な議論が必要なわけです。
だから、先ほどの保護行政の在り方についてでも首長から独立した機関でという、そういう結論だって出ているはずなわけで、やはりそれと矛盾した結果だと言わざるを得ないと。やはり……
委員長(高階恵美子君)
吉良君、申合せの時刻が過ぎております。おまとめください。
吉良よし子
文化より開発みたいな形になることは認められないことを申し上げまして、質問を終わります。
吉良よし子
日本共産党を代表して、文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案に対し、反対の討論を行います。
反対する第一の理由は、本改正案が文化財保護法の理念を大きくゆがめるものだからです。
我が国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできない文化財を保護し、その上で国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献するための活用をと制定されたのが文化財保護法です。
しかし、安倍政権は、文化財を観光資源として位置付け、稼ぐ文化として活用を進めるとし、本改正案でその制度的な枠組みを整備しようとするものです。文化財の保護、保存よりも観光資源として利益を追求すれば、短期的かつ金銭的な利益を生む稼ぐ文化以外の文化財は切り捨てられてしまう危険性があり、それを容認することはできません。
反対する第二の理由は、本改正案が地域の文化財保護、保存を担ってきた自治体の仕組みを壊すものだからです。
自治体における文化財の保護、保存は、教育委員会が所管しています。それは、文化財の保護、保存には専門的、技術的な判断、継続的な保護、保存の取組、地域の開発行為との均衡、学校教育や社会教育との連携などが必要で、開発行為を行う首長から独立している教育委員会でそれらを担保することが求められているからです。
しかし、本改正案では、地教行法を改正し、文化財の保護、保存を首長部局に移管させることを可能にします。この場合、設置するという地方文化財保護審議会についても、その人事は首長部局が決めるとされている。これでどうやって開発行為と文化財保護との均衡を公正に保つのか。それが担保できない下でのこの改正を認めることはできません。
最後に、かけがえのない公共財産である文化財を保護、保存し未来へ継承していく上で、学芸員など専門職員の配置を始めとする体制の整備、そして保存、修復などに必要な予算の確保こそ緊急に求められている課題であるということを申し上げて、討論といたします。