著作権法/広範囲に権利侵害/改定案を追及
要約
吉良よし子議員は17日の参院文教科学委員会で、権利制限規定を柔軟にして著作物の利用を広げる著作権法改定案について、「広範囲に権利侵害が起きてしまう可能性がある」と指摘しました。
著作物の利用などに関しては、権利者の許諾を得ない限り利用してはならないとする原則(オプトイン原則)がとられています。しかし、改定案では、AI(人工知能)開発のためのディープラーニング(深層学習)の利用など「権利者に及ぶ不利益が軽微」な場合などには、権利者の許諾なく著作物を利用することを可能にしようとしています。
吉良氏は、審議では参考人からも、改定案によってオプトイン原則が「事実上空洞化する」などの懸念が出されたことなどを指摘。改定案では、権利者が自分の著作物が利用されていてもその事実を知りようがなく、不当な権利侵害がされても訴えようもない事態まで起きかねないと述べ、「権利者の権利行使の実効性を担保する仕組みはあるのか」とただしました。
林芳正文科相は「特別な手立てはなく、今般の改定の立法趣旨、内容の周知につとめる」というだけ。吉良氏は、権利制限規定の柔軟化は産業界等からの要求が大きな契機となっているとして、「産業界のために権利者に我慢ばかり強いる改定と言われても仕方がない」と批判しました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
では、まず、この著作権法、改正案ではなくその法自体そのものの原則について確認をしていきたいと思います。
著作権とは、創作した著作物を他人に無断で利用されない権利であり、他人が著作物を利用する場合は原則として権利者の許諾を得なければならない、このオプトイン原則というのは著作権法の原則だと思うのですが、これは本改正案においても変わらないということでよろしいのでしょうか。大臣、お願いします。
国務大臣(文部科学大臣 林芳正君)
委員御指摘のとおり、著作権法は著作者に対して著作物の利用に関する排他的な権利を付与しておりますので、著作物を利用するためには著作権者の許諾を得なければならないのが原則でございます。
今般の改正は、例外として権利者の許諾なく著作物の利用を行うことができる場面を定めた権利制限規定の範囲を広げるものですが、著作物を利用するためには原則として著作権者の許諾を得なければならないという著作権法の考え方を変更するものではございません。
吉良よし子
あくまでもオプトインが原則であり、今回の改正も含めて全部例外だということだと思います。だからこそ、この間もこの著作権法の改正というのは、その権利、著作者の権利を制限する場合は法律事項として個別の条文で改正を行ってきたのがこれまでのやり方なわけです。
今回の改正についても、第三層とされている教育や福祉、報道などに関わる改正については具体的な利用目的ごとの改正であり、従来のやり方とほぼ同じと思うわけですけれども、とりわけ障害者の情報アクセスの機会の充実などは必要な改正だと考えるわけですけれども、一方、第一層、第二層として今回提案された柔軟な権利制限規定についてはどうかという点でいくと、例えば、著作物の表現の享受を目的とせず情報通信設備のバックエンドなどでの利用とする第一層、それから、インターネット検索サービスの提供に伴い必要な限度で著作物の一部分を表示する場合など権利者に及ぶ不利益が軽微である第二層という二つの類型については、権利者の許諾を必要とせずにその利用を求めることを可能とするといいますが、かなり抽象的な表現になっていると思うんです。
つまり、個別具体に例外を定めるのではなくて、より幅広くこのオプトイン原則の例外を認めることになってしまうと。これを根拠にして想定以上の広範囲な権利侵害が起きてしまう危険性はないのかと。原則と例外の関係が逆転してしまって例外ばかりとなってしまわないのか、そういう懸念があるわけですが、その懸念は一切ないと、この法改正の中では一切ないと言えるのでしょうか。大臣、いかがでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
今般の柔軟な権利制限規定の整備に当たりましては、権利者に及び得る不利益の度合い等に応じて行為類型の分類を行った上で、そのうち、まず第一層、通常権利者の利益を害さない行為類型、それから第二層、権利者に与える不利益が軽微な行為類型、それぞれにつきまして法の適用範囲の明確性と柔軟性のバランスに適切に配慮する形で制度設計を行うことといたしました。
文部科学省としては、今回の改正案で新たに整備しようとする規定は、著作物の公正な利用を促進することと権利者の利益を保護することのバランスが取れたものとなっているものと考えておりますが、これらの規定が立法趣旨に沿って適切に運用されるように、今般の改正法の立法趣旨及びその内容についてしっかりと周知に努めることにより、権利侵害が助長されることがないよう取り組んでまいりたいと考えております。
また、このように著作物の公正な利用を促進することと権利者の利益を保護することのバランスを取った形で規定を整備しておりますので、著作物を利用する際には、原則として著作権者の許諾を得なければならないという著作権法の考え方が空洞化することはないというふうに考えております。
吉良よし子
権利侵害を助長されないようにと、バランス、適切に規定も定めているという話でしたけれども、そうはいっても、十五日の参考人質疑の中では、山田健太参考人は、結果として、こっそりはいいけれども堂々とは駄目なんだということになると、こっそりだと認められてしまうことになるんじゃないかということを指摘しながら、オプトイン原則が事実上空洞化してしまうのではないかという懸念を示されていたわけで、その懸念が先ほど来ある不当に害することのないようにとか軽微な利用などの規定で本当に払拭できるのかという点では、やはりまだ納得がいかない部分が大きいと思うわけです。
実際、この不当に害するとか軽微な利用というその規定の指す範囲は不明確という指摘はこの間衆参の委員会の中で相次いでされているわけで、それに対してガイドライン等を整備するなどの答弁もされているわけですけれども、一方で、答弁の中では、ガイドラインというのは、法の画一的な運用を促して、法の柔軟な運用をかえって阻害する場合もあるなどとして、そのガイドラインを策定しない場合もあり得るとの答弁もあるわけです。
つまり、ガイドラインを策定するかどうか、策定する場合もあるし、しない場合もあるということだと思うんですけれども、じゃ、そのガイドラインを策定するかどうかということは誰がどのように判断するのでしょうか。大臣、お願いします。
国務大臣(林芳正君)
この抽象度、柔軟性の高い規定を導入する場合は、法解釈の余地が大きくなるために、権利制限の対象となるか否かに関する予測可能性が低くなることが考えられるわけでございます。この問題の解決方法の一つとしてガイドラインの策定が有効な場面もあると考えられるところであり、その点、文化審議会著作権分科会でも指摘をされているところでございます。
一方で、今委員からの御指摘もあったように、ガイドラインは、法の画一的な運用を促し、法の柔軟な運用をかえって阻害する場合もあることから、あえてこれを定めずに、裁判外の紛争処理手続や司法手続における柔軟な解決を図る方がより望ましい結果を導く場合もあるわけでございます。
したがって、ガイドラインの策定につきましては、法の成立後新設される規定を利用しようとする関係者のニーズ等に応じて、その要否、策定主体、策定プロセス、策定内容等について判断されることが望ましいと考えております。
文科省としては、関係者のニーズや国に期待される役割等を踏まえて、ガイドラインの整備に向けて取り組むこととしたいと考えておるところでございます。
吉良よし子
関係者のニーズを把握して、そのニーズに応じて判断をするということだったわけですけれども、では、どうやってその関係者のニーズを把握するのでしょうか。権利者、利用者、それぞれの立場があると思う、その意見をよく踏まえることが必要だと思います。これはガイドラインだけではなくて、この間指摘のある、政令を定めていく、二層に関していえば、政令を定めて対応していくというこの政令を作る際にも、関係する事業者とか権利者等の意見を伺いながらと答弁もあるわけですけど、こうした関係者の声を聞く場をどのように設けていくおつもりなのか、この点もお答えいただければと思います。
国務大臣(林芳正君)
このガイドラインの策定のニーズや今委員からもお話のありましたこの新第四十七条の五第一項第三号の政令で定める行為のニーズ、これにつきましても、改正法の成立後、適切に関係者のニーズを把握することができますよう、関係者に対してヒアリングを行うなどの方法を含めて、効果的な方法を検討してまいりたいと思っております。
吉良よし子
ヒアリングを行うということでした。
例えば、パブリックコメントで意見聞いたからそれでいいということじゃなくて、実際に直接意見を聞き、議論をする場を是非設けていただくよう強く求めたいと思います。ただ、このガイドラインやまた政令等が必要に応じて適切に作られたからといって、じゃ、オプトイン原則が空洞化されるという懸念が払拭できるかというと、そうとも言えないと私は思うんですね。
山田教授も何をおっしゃっていたかというと、全データが集積、集中化する中で、一体自分の著作物を誰が保持しているのか、どういうふうに使っているのかが分からないという状況が生まれがちだと指摘されていた。つまり、この改正案の下で、第一層、第二層の類型だということで自分の著作物が何らかの形で利用されていたとしても、とりわけ第一層だとそうだと思うんですけれども、権利者はそれが利用されている事実すら知りようがないという事態が生まれると。そうなれば、実はそれが第一層や第二層に当てはまらない利用だった、つまり権利侵害だったとしても、その利用された事実を知りようがないのだから訴えようもないという事態も起きるのではないかということが懸念されるわけです。
こうした事態を防ぐ、権利者がちゃんと権利の行使ができるような、それを担保する仕組みというのはこの法案の下にあるのでしょうか。
国務大臣(林芳正君)
今般のこの柔軟な権利制限規定につきましては、権利者の市場に大きな影響をもたらさないものを対象として、明確性にも配慮して制度設計をしておるところでございます。そして、この範囲を逸脱するものや目的外使用については、これはもう著作権侵害ということになりますので、民事上の請求やあるいは刑事罰の対象となるわけでございます。
したがって、今般の柔軟な権利制限規定によって直ちに権利侵害が助長されるとは考えておらず、今般の法改正において、御質問のように、特別に権利者の権利行使の機会を確保するような措置、これは含まれておらないところでございます。
もっとも、文科省としては、今般の改正法の内容に関する誤解に基づいて権利侵害が行われることがないように、法が成立した後は今般の改正の立法趣旨及びその内容についてしっかりと周知に努めてまいりたいと思っております。
吉良よし子
特別な措置はないということだったんですね。幾ら目的外使用は権利侵害であって民事上の請求等ができるといったって、その利用の事実を知らなければ請求もできないと。侵害の事実も把握できない下で権利侵害が起きてしまうという、それを防ぐ手だてが今のところはないということであり、それはやはり重大な私は問題だと思うわけですね。
これは、単純に権利侵害の問題だけではなくて、例えば第一層、第二層、とりわけ第一層などで類型を使って著作物を利用した利用者が、その利用によって得られた新技術を用いて何らかの利益を得たとした場合に、その利益がその著作者に還元される、その仕組みすらもないと。自分の著作物が利用されている、どこで利用されているか分からないからそれを請求する手だてもなくなってしまうということになるわけです。
だから、本改正案というのは、イノベーション創出のためだという産業界等からの要求があったと言われていますが、これではやはり産業界のために権利者に我慢ばかり強いるような改正だと言われても仕方がない状況になってしまっているのではないかと言わざるを得ないわけです。
やはり、今回の法改正、とりわけ著作権法というのは文化政策の下で議論するべきものですから、やはり表現の自由とか文化政策という視点で議論し、時の政権の要望、産業界の要望だけで安易に進めてはならないということも強く申し上げておきたいと思います。
そして最後に、少し時間がありますので、一点、加計学園の獣医学部の問題についても伺っておきたいと思います。
今月十日、衆参の予算委員会にて、柳瀬元首相秘書官の参考人質疑が行われました。ここで柳瀬元首相秘書官は、四月二日、前後にわたって三回、官邸の中で加計学園らと面会した事実があるということを認めたわけですけれども、それを受けて、文科省でも、官邸の参事官として当時出向していた角田氏が、以前は同席したかどうか覚えていないとおっしゃっていたのが、その柳瀬氏の十日の答弁を受けて、同席していたのではないかと記憶を取り戻しつつあるという御答弁がありました。
ということを踏まえると、同じように記憶を取り戻しつつある職員が文科省の中にも増えてきているのではないかと私は思わざるを得ないわけですけれども、そういうところからいくと、この間、愛媛県の文書であるとか若しくはメールだとか、それに付随する文書ないのかと再調査を再三依頼してきたわけですが、新たな局面に入っている。
再調査をするべきと思いませんか、大臣。いかがでしょうか。
委員長(高階恵美子君)
簡潔におまとめください。
国務大臣(林芳正君)
はい。
四月二十日に公表したとおり、愛媛県等が官邸を訪問したとされることについての事前連絡等に関する文書について聞き取りを行う中で、職員が個人的に紙ベースで残していた可能性があると言及した職員がおり、本人の了解を得た上で探した結果、紙ベースのメールについて存在をしたところでございます。
その後、今のお話で、この五月十日の参考人質疑等を踏まえて、内閣官房の指示を受けて、当時文科省から内閣官房に出向していた職員に対し、平成二十七年の四月二日とされる面会に同席したかなどについて確認を行ったところでございます。
四月二十日の公表の調査で、かなり関連する部分を調査をしております。参考人質疑後においても丁寧かつ詳細に確認したところでございまして、現時点で考え得る最大限の方法で確認作業を行ったものと考えております。
委員長(高階恵美子君)
時間が過ぎておりますので、おまとめください。
吉良よし子
はい。
最後、一言言わせていただきますけれども、記憶がないとおっしゃっているわけですよ。ただ、やっぱりこういう記憶に基づく調査じゃ限界があるわけです。そもそもこの調査、最初から、記憶がないと答えた方のフォルダ等は調査をしていないって、そういうやり方自体がやはり不備があるわけですし、再調査が絶対に必要だということを強く申し上げまして、質問を終わります。
吉良よし子
日本共産党を代表して、著作権法改正案に対し、反対の討論を行います。
本改正案は、イノベーション創出を促進するためなどとし、柔軟な権利制限規定を創設するものです。その内容を見ると、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的とせず、情報通信設備のバックエンドなどで行われる利用、インターネット検索サービスの提供に伴い必要な限度で著作物の一部を表示する場合などと非常に抽象的な表現です。これは、権利の保護や適法性を判断する上で最も大事な概念を曖昧にすることであり、不当な権利侵害を助長しかねません。
政府は、これについて、権利者の利益を不当に害しないことや軽微な利用に限ることなどを書くことで権利者の利益を阻害しないようにすると言いますが、その範囲も不明確です。この下で、著作物を利用する際には許諾を必要とするという著作権法の原則が空洞化しかねない点が問題です。
さらに、柔軟な権利制限規定の下では、権利者の知らない間に著作物を利用されることになります。万が一、権利侵害が起きても知りようがありませんし、それを防ぐ特別な手だてはないとの答弁もありました。また、権利侵害が判明したとしても、最終的な判断は司法に委ねられます。これでは、権利者団体から、利用者が拡大解釈した権利侵害が横行し、いわゆる居直り侵害者の蔓延を招くなどの懸念の声が現実のものとなってしまいます。様々な事情から提訴できなければ泣き寝入りをせざるを得ない権利者を生むことになることも見過ごすことはできません。
そもそも、著作権は著作権者の権利の保護や文化の継承、表現の自由を守るために文化政策として議論されるべきものです。今、権利者がその権利行使をする仕組みを担保しないまま、産業界からの要請と一時の政権の経済政策のために権利者に我慢を強いることになる本改正案は容認することはできません。
なお、改正案には、マラケシュ条約に必要な規定の整備や美術館等の収蔵作品解説をタブレット端末でも可能とすることなどが含まれています。これらの法改正は当然の措置であり、賛成することも申し上げ、討論といたします。
以上です。