原発賠償、加害者任せ/改定案の問題指摘/参院委可決
要約
原子力損害賠償法改定案が4日、参院文教科学委員会で自民党、公明党、国民民主党、維新の会などの賛成で可決されました。日本共産党、立憲民主党、希望の会(自由・社民)は反対しました。
採決に先立つ質疑で、日本共産党の吉良よし子議員は、同改定案が原子力事業者に新たに賠償実施方針の作成・公表を義務付けながら、実施方法は白紙委任となっていることを指摘。「加害者が一方的に方針を決めて、押し付ける懸念を抱かざるをえない」と批判しました。
吉良氏は、福島第1原発事故の賠償では、東電が一方的に賠償の範囲や賠償の時期を決めたり、全てが合意できなければ1円も被害者に支払わない実態を指摘。改定案では、原発事業者が賠償方法を押し付けたり、賠償請求を制約できないよう省令で明確に禁止し、賠償実施方針についても、妥当性を評価する第三者協議を設けるよう求めました。文科省の佐伯浩治研究開発局長は「省令に何を書くかは、法案成立後、有識者の方も含めて意見を聞きながら検討していく」と述べるだけでした。
また、吉良氏は、東電が原子力損害賠償紛争審査会の示した中間指針を超える賠償に一切応じていないとして「この際、中間指針を見直すべきだ」と追及。柴山昌彦文科相は「紛争審査会で判断されること」などと言い逃れました。
吉良氏は「加害責任をうやむやにしたまま、被害者を切り捨てている現状をそのまま一般化して、他の原発にも適用しようという今回の法改定には到底賛成できない」と強調しました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
私もこの法案の質疑の前に、先日、福島を訪れまして、農家の皆さんのお話を伺いました。皆さん共通しておっしゃっていたのが、お金が欲しくて賠償を求めているんじゃないというお話なんです。
例えば、リヤカーで自ら作った野菜を引き売りをしていたという八十歳代の方は、毎日の売上げをカレンダーに記入をしていた、それが事故以降は毎日、売れない、売れない、売れないと書いている、そのカレンダーを見せても東電は賠償を認めなかったと。彼女は、今まで細々とだけれども毎日売上げがあって、おいしいと言われるのが誇りだったんだ、お金じゃないんだ、その誇り、生きがいを奪われたのが悔しいんだと東電職員の方に訴えたとおっしゃっていた。
こういう一人一人の生きがいや誇りを奪ったのが原発事故ですよ。その加害責任を国や東電が認めて、せめて、せめて最低限の補償はしてほしいというのが福島の皆さんの共通する願いなわけです。本改正案がこうした願いに応えるものになっているのか、あの東京電力福島第一原発事故により今行われている賠償の実態を踏まえた改正になっているのかが問われているわけです。
そこで、この法案についての質問に移りたいと思うんですけれども、本法案には、新たに原子力事業者に対して賠償実施方針の作成、公表を義務付けていると。先ほど来この点についても質疑がされているわけですけれども、この法案の中では、実施方針というのは、損害賠償措置の概要、原子力損害の賠償に係る事務の実施方法などが例示として示されているだけで、それ以上の詳しい中身は書かれていない。あとは省令だということなんです。もちろん、方針作ること自体を否定するものではありませんが、しかし、重要なのは、書かれる中身、それが適正なのかどうか、事業者任せで白紙状態でよいのかということです。
先日の参考人質疑では、東電が一方的に賠償の範囲や申請の書類の書式、賠償の時期を決めて被害者に押し付けているという実態が指摘されました。
その一つが、二〇一五年に入ってから進められた営業損害に関しての一括賠償方式です。これは事実上の賠償打切りであるとして多くの批判があるわけですが、特に問題なのは、この一括賠償方式を採用して以降、東電は、この方式の請求でない限り賠償請求を受け付けない、合意しないという態度を取っているということです。
このように、賠償方式をあらかじめ一つに定めて、それ以外の請求を認めないような方針を策定する、これは明確に禁じるべきと、せめてそれを省令に書くべきだと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
政府参考人(文部科学省研究開発局長 佐伯浩治君)
お答え申し上げます。
損害賠償実施方針は、全ての原子力事業者に対し、損害賠償の実施に係る方針を作成し公表することを義務付け、損害賠償の迅速かつ適切な実施を図るために、平時から備えさせようとするものでございます。
一般論として申し上げますと、例えば、仮に原子力事業者が合理的な理由もなく一方的に賠償の範囲を狭めたり、特定の損害にしか賠償を実施しないといった方針を定めたような場合には、今般の改正により新設する第十七条の二第一項に規定する原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施を図るためという制度趣旨に反する場合も考えられます。このような場合には、制度を所管する文部科学省としては、必要に応じて当該原子力事業者に対し、本制度の趣旨に反しており改善が必要なことを伝えるなど、作成される損害賠償実施方針が賠償の迅速かつ適切な実施という本制度の趣旨にかなったものとなるよう、制度の適切な運用を図ってもらいたいと考えておりますし、まさにそのために事前によく制度の趣旨の徹底等に努めてまいりたいと思っております。
吉良よし子
迅速かつ適切な賠償の実施にかなわないかもしれないので、それがあった場合には指導するというお話だったと思うんですけれども、やはりあらかじめ省令に書くということが必要だと思うんですね。それ、書くとはおっしゃらなかったというのは私問題だと思うんですけど、時間ないのでもう一点伺いたいんですけれども。
賠償の交渉の過程では、当然ですが、直ちに全て双方が合意することもあれば全部が決裂する場合もあれば一部は合意できる場合もあるわけですけれども、東電の場合、この一部が合意できる段階であっても、全ての合意ができなければ一円たりとも払わないと、そういう姿勢を取っていることが問題だと参考人からも指摘がありましたけれども、こうした迅速かつ適切な賠償の実施というのであれば、一部合意、一部和解であっても柔軟に認めるべきである、そういう柔軟な対応をする方針というのも盛り込むように、これも省令で示すべきと思いますが、いかがですか。省令に書き込むかどうか、お答えください。
政府参考人(佐伯浩治君)
お答え申し上げます。
事業者が被害者に寄り添った賠償を行うことは、迅速かつ適切な賠償という制度趣旨にかなうものと考えられます。
損害賠償実施方針に関する省令につきましては、法案の成立後に文部科学省において有識者の意見なども聴取しつつ検討することとしておりますが、一般論として申し上げれば、和解後の迅速な賠償の履行の在り方といったことについても、新設する第十七条の二第二項に定める原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施に関し必要な事項として省令の記載事項とするか否かの検討の対象となり得ると考えられます。
ただし、いずれにせよ、原子力事業者が事前に定める具体的内容につきましては、万が一事故が発生した場合の規模や態様だけでなく、各原子力事業者が保有する原子炉等の立地する地域や個別の原子力事業の内容なども様々であることから、文部科学省が全ての事業者に一律又は具体の対応を求めることは適切ではなく、各原子力事業者が自主性を持って対応することが妥当であるというふうに、このように考えております。
吉良よし子
検討の対象になり得るということですが、書くかどうか、この現時点ではっきり言わないという、もうそれがやっぱり問題だと思うんですけど、大臣、ここで大臣に確認したいんですけれども、加害者である事業者が一方的に方針を決めて押し付けるんじゃないかという懸念が、この法案では抱かざるを得ない状況なわけです。
こういう加害者である原子力事業者が賠償の方法を被害者に対して一方的に押し付けたり、そういうことで被害者の側が賠償請求に制約を受けたり排除されたりするようなことはあってはならないと思いますが、その立場でよろしいですか。
国務大臣(文部科学大臣 柴山昌彦君)
明らかに不適切な内容の方針を事業者が作成、公表した場合には、制度趣旨に反する、法律の求める内容となっていないということを当該事業者に伝えるなど、作成される方針が本制度の趣旨にかなったものとなるよう、文部科学省としてしっかりと対応していきたいというように思っております。
なお、加えて言えば、吉良議員から、一部和解等について被害者に寄り添った賠償を行うこと、これについていかがかという御質問もいただきました。
確かに、寄り添った賠償をすること、制度の趣旨に合致すると考えておりますが、今、佐伯局長の方からお話があったとおり、じゃ、何が被害者に寄り添った迅速な賠償なのかということについては、様々な事例によって検討するファクターがあるというように考えております。
現時点においては、各原子力事業者が自主性を持って対応する部分が多いのかなというように思いますけれども、和解後、迅速な賠償の履行の在り方の扱い等につきましては、制度趣旨の事業者への周知の過程等を通じてしっかりと対応を検討したいと考えております。
吉良よし子
対応を検討すると言いますけど、やはり被害者の側が制約を受けたり排除されてはならないと、これは明確に、少なくともこれぐらいは明確に省令に明記するべきではないですか、事後の対応ではなくて。
政府参考人(佐伯浩治君)
お答え申し上げます。
いずれにしましても、省令に何を書くかにつきましては、これから法案成立後に、施行までの間、様々な方、有識者の方も含めて意見を伺いながら検討を深めていきたいと思っております。
吉良よし子
何もお答えにならないというのは本当に情けないと思いますよ。いろいろ事態があるとおっしゃっていますけど、個別の事情だとおっしゃっていますけれども、現時点で東電の事故が起きていて、被害者がいて、賠償が実施されている中で様々な問題が起きている、その事例を私は言っているわけで、これが万が一ほかの原発でも起きたときに、起きないという保証はどこにもないわけですよ。
大体、公表する方針が適正な方針になるかどうかというのはやっぱりどこにも保証されていないわけですよ。仕組みがない。それはこの間、与野党問わず皆さん指摘されていたことですけれども、参考人質疑では、この方針の妥当性について評価する第三者チェックが必要なんじゃないかという意見がありました。こういう第三者チェック、少なくとも方針できた後に地元住民、自治体などと意見を協議する場を設けるよう、これを省令に、少なくとも省令に書くべきだと思いますが、いかがですか、大臣。
国務大臣(柴山昌彦君)
原子力損害賠償実施方針の作成に当たって、原子力事業者があらかじめ様々な方々の意見を聞くということは、迅速かつ適切な賠償の実施という制度趣旨にかなうと、おっしゃるとおり、考えられます。
ただ、方針の作成が義務付けられている原子力事業者が保有する施設は原子力発電所から核燃料物質等を取り扱う研究室まで多様でありまして、一概に、ステークホルダーとの関係も一様ではありません。このため、文部科学省が省令等で一律に、誰と誰を、協議の場をこういうところで行いなさいというような形での定めをする、あるいは事業者に設けさせたりするということは必ずしも妥当ではないのではないかと考えております。
したがって、文部科学省といたしましては、公表に伴う事業者間の方針の共有ですとか、考えられる関係者との対話が図られることを通じて内容の適切性を確保することが適当であるというように考えておりまして、そのように促していきたいと考えております。
吉良よし子
結局書くとはおっしゃらないですし、妥当だと言いながらそのための方策を国が示さないというのはやっぱり無責任ですよ。
第三者チェック、少なくとも協議の場を設けるということは、誰を呼ぶかというのはそれは事業者とか当事者が決めることでもいいかもしれないですけど、協議を求める、協議の場をつくることぐらいを省令にも書けないというのはどうなのかと。本来、そもそもこれらは法律に明記するべき問題であり、それも書けていないというところでは、やはり、先ほど来申しているとおり、被害者が一方的に不利益を被る、排除されたり制限を受けたりするような可能性は否定できないと言わざるを得ない状況だと申し上げたいと思います。
時間がないので次に行きますけれども、実際、じゃ、東京電力は三つの誓い、先ほどもありましたけど、掲げているけど、それが、じゃ、守られているかというとそうではないという事例もあるというお話もありました。実際の賠償の実態を見れば、ADRのような和解仲介案でも、若しくは各地で行われている集団訴訟による判決でも、今国が示している中間指針を超える賠償が認められている、にもかかわらず、東電はこの指針を超える賠償に一切応じていないと、これが大きな私問題だと思うんですけれども、確認をいたしますけれども、この中間指針というのは賠償の上限ではなく目安だということでよろしいですね。簡潔にお答えください、局長。
政府参考人(佐伯浩治君)
中間指針等は類型化が可能で一律に賠償すべき損害の範囲や項目の目安を示すものであり、さらに、個別具体的な事情に応じて中間指針等で示された以外の損害や賠償額が認められることがあり得ることを基本的な考え方とするものでございます。
したがって、紛争審査会において中間指針等は賠償の上限額ではないとの共通認識の下で策定されるものであり、東京電力においては、このような中間指針等で示された考え方を踏まえ、被害者に寄り添った誠意ある対応を行うことが重要であると考えております。
吉良よし子
つまり、上限ではないということなんです。あくまでも目安なんです。ところが、東電は現場の対応としては指針で示された以上の賠償は認めていない、かたくなに拒否をしていると。この東電の対応は、私、許し難いと思うんですね。
文科省はこの東電に対して、先ほどもおっしゃっていましたけれども、この中間指針の考えを十分に踏まえるよう累次にわたって要請しているとおっしゃっていますけれども、でも、東電はあくまでもそういう要請を聞かないという、上限としか見ていないというのが現状なわけです。だとするならば、もう一つ国が取れる対応があると思うんです。この賠償実施の指針、中間指針そのものを抜本的に見直すという方法があると思うんです。
大臣、この際、今この中間指針、見直すべきときにあると思いませんか。
国務大臣(柴山昌彦君)
紛争審査会では直ちに中間指針の見直しを検討する状況にはないということが確認をされておりますけれども、引き続き、同紛争審査会における審議ですとか、あるいは被災地の現地視察などによって賠償状況や被災地における実態の把握を通じて、東京電力における賠償の状況をしっかりとフォローアップをすることが重要であるというように考えております。
その上で、紛争審査会で御審議、御判断されることでありますけれども、当然のことながら、審査会が必要と認める場合には、適時適切な中間指針の見直しについて検討されるものと考えております。
吉良よし子
必要と認めればと言いますけれども、今見直すべきときだと思うんですよ。だって、もうこの間、地裁段階ではありますけど、集団訴訟で七件、判決が出されています。いずれも中間指針を上回る賠償を認めているものです。
この訴訟というのは、福島県内全ての市町村から約四千五百人が参加していて、そのうちの約四千人について判決が出されているという状況で、四千人となれば個別の判断という状況ではない、もう一律に変わってしかるべき段階だと、今こそ国が責任持って中間指針の抜本的な見直しするべきときだと、そう思いませんか、大臣。いかがですか。
委員長(上野通子君)
簡潔にお答えいただけますか。
国務大臣(柴山昌彦君)
繰り返しになりますけれども、専門性を有する有識者の集まった紛争審査会でしっかりと議論していただきたいと思います。
委員長(上野通子君)
お時間です。
吉良よし子
はい。
やっぱり今見直さなきゃいけないんですね。あと何回判決が出れば、何年待てば被害者が救われるのか、国が動くのか、それじゃ駄目なんですよ。
そうやって国や東電の加害責任を曖昧にしたまま被害者を切り捨てていくような、今の実態を追認するような状況で、それを一般化してほかの原発にも適用しようというような今回の法改正には到底賛成できないということを申し上げて、質問を終わります。
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
私は、日本共産党を代表し、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
東京電力の福島第一原発事故により、放射能汚染という巨大かつ深刻な事態が引き起こされ、多くの方々がふるさとの喪失を押し付けられました。その賠償額は、ふるさとを喪失した住民にとっては極めて不十分であるにもかかわらず、現時点で既に八兆六千億円に膨れ上がっています。
建前上は、原賠法第十六条が規定する政府の援助として具体化した原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、賠償法の無過失責任、責任集中、無限責任の三原則が維持されているように見えますが、実際は、賠償金額がどれほどになり、いつまでに払い終わるかさえ定まっていません。今後起こり得る事故への対応以前に、賠償法の三原則は実質的に破綻しているのです。そして、東京電力を始め大手銀行や原子力メーカー、そして国の加害責任は曖昧にされたまま、その多くを税金と電力料金という形で国民に負担を押し付けるものとなっています。このような原賠法、損害賠償支援機構法スキームで賠償を可能とする本法案は、東京電力救済の特別スキームを一般化し、全国の原発の再稼働に備えようとするものにほかなりません。
また、本法案は、新たに原子力事業者に損害賠償実施方針の作成、公表を義務付けていますが、東京電力が行っている賠償の実際を見れば、加害者である事業者が被害者に対し一方的に賠償の方式を定める危険があります。質疑の中でも、方針の中身については触れられず、省令などで細かく定める予定もなく、被害者の請求権が制限される可能性も否定できません。
また、東京電力は、原子力損害賠償紛争解決センター、ADRから提示された中間指針を超える和解仲介案を拒否する事例を繰り返しています。ふるさとにおいて安心して元の生活を取り戻すことができるように原状回復を求める集団訴訟においても、中間指針を超える賠償が認められているにもかかわらず、東京電力は一切応じておりません。原賠審が定める中間指針は賠償の目安であり、上限でないのは明らかです。それなのに、これらの和解案等に応じない東京電力の姿勢は容認できません。直ちに国の責任で東京電力の姿勢を改めさせるとともに、中間指針を抜本的に見直すことが必要です。
なお、立憲民主党、希望の会(自由・社民)提案の修正案については、法の目的規定から原子力事業の健全な発達を削除するなど賛同できるものですが、国民民主党の修正案には賛同できません。
以上申し上げ、討論といたします。