原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律案 反対討論
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
私は、日本共産党を代表し、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
二〇一一年三月十一日に始まる東京電力の福島第一原発事故により、放射能汚染という巨大かつ深刻な事態が引き起こされ、多くの方々がふるさとの喪失を押し付けられました。
現在、福島第一原発は、収束には程遠く、事故の真っただ中にあります。溶け落ちた核燃料の位置や状態はいまだ把握できず、ALPSで処理できなかった放射性物質が含まれた汚染水が増え続けています。
今なお五万人が避難生活を余儀なくされ、避難指示が解除されても、暮らしを支える商店や病院がなかなか整わないなど、帰還と復興を進める上での課題は山積しています。
ところが、安倍政権は、避難指示解除とセットで賠償を打ち切り、福島原発事故を終わったことにしようとしています。その下で、自主避難者とされる人は増え、必要な支援を受けられなくなっている方も多くいます。被災者を分断する線引きや排除、期限切れを口実にした切捨ては許せません。
いわゆる自主避難者を含む全ての被災者、被害者を賠償の対象にすることを求めます。生活となりわいが再建され、希望する人がふるさとに帰り、命と健康を守る医療や介護、子供たちの教育を保障し続け、安全、安心の福島県を取り戻すまで、国の責任で復興を支援しなければなりません。
そして、賠償についても、被災者、被害者の皆さんの思いに寄り添っているとは言えない状況が続いています。
私も、先日、福島に行き、旅館業の皆さん、漁協の皆さん、そして農家の皆さんのお話を伺いました。皆さん共通しておっしゃっていたのは、お金だけの問題じゃないということです。
例えば、自ら作った野菜をリヤカーで引き売りをしていた八十代のおばあちゃんは、毎日の売上げをカレンダーに記入していた。それが事故以降は売れなくなって、毎日毎日、売れないと書いている。そのカレンダーを見せても東京電力は賠償を認めなかったといいます。
事故が起こるまで細々とでも毎日売上げがあり、おいしいと言われるのが誇りだったというおばあちゃん。そういう誇り、生きがいを奪ったのが原発事故です。だから、国や東電はその加害責任を認めてほしい。これが福島の皆さんの共通する願いなのではないでしょうか。
本法案が、こうした皆さんの願いに応える改正になっているのか、東京電力福島第一原発事故を受け、現に行われている賠償の実態を踏まえた見直しになっているのかといえば、決してそうとは言えません。
東電福島原発事故の損害賠償額は、既に八兆六千億円に膨れ上がっています。この賠償額は、ふるさとの喪失を押し付けられた被害者にとっては極めて不十分であるにもかかわらず、東京電力を始め、大手銀行や原子力メーカーなどの責任は曖昧にされ、その多くは税金と電気料金という形で国民に負担が押し付けられています。
福島原発事故では、原賠法第十六条の政府の援助を根拠に、国が交付国債や政府保証、直接補助で東電を支える枠組みがつくられました。建前上は、原賠法の無過失責任、責任集中、無限責任の三原則が維持されているように見えますが、実際は、賠償金額が幾ら掛かり、いつまでに払い終えるかさえ定まっていません。この仕組みで原発事業を続けていくこと自体が既に実質的に破綻しているのです。
ところが、本法案は、電力会社が準備する賠償措置額を千二百億円に据え置いて、電力会社に融資した大手銀行や原子力メーカーの責任も不問にしたままです。東京電力を超過債務に陥らさせないためにつくられた東電救済の枠組みを一般化して、全国の原発再稼働に備えようとしている本法案には到底賛成できません。
東電の経営陣、株主、大銀行、メガバンク、原子炉メーカー、ゼネコンなど、原発利益共同体に責任に応じた負担を求め、国民負担の最小化をするべきです。原賠法の目的から原子力事業者の健全な発達を削除して、被害者への賠償のみを目的とすることを求めます。
また、東京電力が被害者の賠償請求に真摯に向き合っているとは言えない現状も問題です。例えば、二〇一五年に入ってから東電は、営業損害に関して一括賠償方式を取っています。この方式は、事実上の打切りであるとして多くの批判がありますが、特に問題なのは、この一括賠償方式を採用して以降、この方式での請求でない限り東電が賠償請求を受け付けない、合意しないという態度を取っているということです。
本法案では、賠償の迅速かつ適切な実施を図るためとして、新たに原子力事業者に損害賠償実施方針の作成、公表を義務付けていますが、その中身は事業者任せ。質疑の中でも、その中身について省令などで細かく定める予定もなく、それらが白紙委任されていることが明らかになりました。これでは、一括賠償方式のような賠償方式を事業者側が勝手に決め、それを被害者に押し付ける、被害者の賠償請求権が制限される危険性も否定できません。
さらに、東電が、原子力損害賠償紛争解決センター、ADRから提示された中間指針を超える和解仲介案を拒否する事例を繰り返していることも問題です。そもそも、原子力損害賠償紛争審査会が定める中間指針は目安であり、上限ではありません。にもかかわらず、指針を上限であるかのように扱って、指針以上の和解仲介案を拒否することは許されません。加害者である原子力事業者に和解仲介案への受諾義務を課すべきです。
また、福島県内の全ての市町村から四千人以上が参加し、ふるさとにおいて安心して元の生活を取り戻すことができるように原状回復を求める集団訴訟では、既に七件、いずれも国が定めた中間指針を超える賠償を認める判決が出されています。昨日の質疑で文部科学大臣は、今は中間指針を見直す状況ではないなどと言いましたが、出された判決を踏まえれば、今こそ、国が責任を持って中間指針を抜本的に見直すべきときです。
既に、原発避難者訴訟では、事故に対する国の法的責任も認められています。原発を推進してきた歴代自民党政府、国が根本的な反省を行って、原発ゼロへの政策転換を明確にした上で国が責任を取ることが不可欠です。
福島原発事故以来、毎週金曜日の官邸前を始めとし、全国で原発ゼロを求める声は広がり続け、再稼働反対が国民多数の世論となっています。事故により原発安全神話が完全に崩壊した今、原発の再稼働と輸出という無謀な道はやめ、原発ゼロの日本へ政治決断を行うべきです。
全ての原発を再稼働せず、直ちに廃炉へ。この国民の声にこそ応えるよう強く求め、反対討論といたします。