2025年・第217回通常国会
世論無視し悪法成立 参院選で審判を 改定給特法 教員「働かせ放題」温存 反対討論
要約
改定教員給与特別措置法(給特法)が、11日の参院本会議で自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主などの賛成多数で可決・成立しました。日本共産党とれいわ新選組などは反対しました。日本共産党の吉良よし子議員は反対討論で、教員の時間外勤務を労働時間と認めない政府に長時間労働はなくせないと批判。「使命感をもって働いている教員の思いを踏みにじり、『働かせ放題』を温存する法案に断固反対する」と強調しました。
吉良氏は、1971年に当時の自民党政府が、公立学校の教員への残業代を不支給とする給特法を制定して以来、教員の労働時間が無定量となったと指摘。小中学校は、毎日平均11時間半労働で、トイレに行く時間もなく、SNSで「もうやめたい」など悲鳴が上がっていると述べました。
改定案は残業代不支給を継続し、教職調整額を4%から段階的に10%に引き上げます。これに対し本田由紀東大教授は、小学校の教員には20・5%、中学校では29%の調整額が必要だと指摘しています。吉良氏は「これに照らせば、10%の引き上げが実態に合わないのは明らかで、適正な処遇改善とは言えない」と批判しました。
吉良氏はさらに、特別支援学校の教員は、給料の調整額を引き下げ、新設される学級担任手当の対象外とすることは特別支援教育の軽視だとして差別的な対応の撤回を求めました。また、新たに導入される「主務教諭」は、教員間に階層と分断を生み、授業負担の軽減も無く、業務を増やすだけだとして容認できないと主張しました。
吉良氏は「持ち帰り残業をしなければならないほど業務が多すぎることが問題だ」と述べ、教員一人の持ちコマ数の削減と基礎定数の改善を求めました。
議事録(未定稿)
※こちらの議事録は速報・未定稿版となります
私は、日本共産党を代表して、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。一九七一年、自民党政府がこの給特法を制定し、公立学校の教員に対し残業代支給を適用除外とした当時、日本共産党を含めた全ての野党がこれでは労働時間が無定量になってしまうと反対しました。事実、給特法が制定されて以降、政府はコスト意識がゼロになり、教員を増やさないまま業務だけは次々と増やし、労働時間が無定量となってしまいました。
現在、小中学校の教員は平均で毎日十一時間半働き、休憩の時間どころか、トイレに行く時間もほとんどなく、土日の出勤、持ち帰り残業もやっています。SNSには毎日のように、もう限界、もう辞めたいと、教員の皆さんからの悲鳴が上がっています。
ところが、本法案では、給特法の残業代不支給には手を付けず、教職調整額を現行の四%から一〇%に引き上げるだけといいます。しかし、参考人質疑で本田由紀参考人が、二〇二二年度の教員勤務実態調査を基に調整額を計算したところ、一月当たりの時間外在校等時間の推計が約四十一時間の小学校の場合は二〇・五%、約五十八時間の中学校の場合、二九%の調整額となる計算だと指摘をされました。これに照らせば、調整額一〇%の引上げが今の教員の労働実態に全く見合わないものであることは明らかです。しかも、一年間で僅か一%ずつ六年掛けて引き上げるというやり方も含め、これが適正な処遇改善などとは到底言えません。
さらに、この教職調整額の財源確保のためとして、他の義務教育特別手当などの手当の見直し、削減をすることは問題です。とりわけ、特別支援教育に携わる教員に対し給料の調整額を引き下げた上、今回新設される学級担任手当も支給しないとする対応は余りに理不尽です。これに反対する署名は、二か月足らずで二万二千筆を超えました。
文科大臣は特別支援教育の重要性が低下しているわけではないと言いますが、調整額の引下げという行為は、まさに特別支援教育の軽視そのものです。多種多様な障害に応じて様々な専門知識を身に付けるため自腹を切って研修を受け、その子に合わせた教材を作成し、一人一人の子供たちに向き合っている特別支援教育に携わる教員の皆さんの業務の特殊性や重要性を理解しているとは思えない差別的な対応は、今すぐに撤回すべきです。
本法案では新たな職として主務教諭が新設されますが、本田参考人が、何の益もなく、むしろその弊害の方が大きいと述べられたように、教員の間に階層化と分断を生み、業務負担の増大も懸念されます。
文科省は、主務教諭について、授業時数を軽減したり制限したりすることは考えていないと答弁しましたが、授業負担の軽減もなく職責と業務を増やすことは許されません。
実際、主務教諭のモデルとなった主任教諭を導入している東京都の現場では、主任教諭になって仕事が増えたという声が上がっている上、主任教諭になっていないのにやるのは損という思いが出てきましたと、対等な立場で助け合い、支え合う教員の同僚性が壊されている実態が明らかになっています。
また、主務教諭になるためには選考を経なければなりませんが、選考による試験や論文、面接の準備についても新たな負担になってしまいます。東京の主任教諭の選考を受け続けている教員からは、今年は受かったって周囲にも何回も言われるストレスがあるとか、教員一覧の名簿に主任教諭か教諭か記載されたときの劣等感、もう嫌な思い出しかないとか、一緒に受験していた同僚は結局受からないまま退職しましたという声も届いています。頑張る教員を評価するどころか、階層化と分断で劣等感を生み、この教員不足の中、教員が教職を去る原因にもなってしまうような主務教諭の導入は到底容認できません。
さらに、本法案では、教育委員会に教員の業務量の管理と健康確保のための計画を立てさせ、時間外在校等時間の上限、目標の達成に向け、目に見える成果を教育委員会、学校に求めています。目に見える成果を求めることで、教育委員会の間や学校の間での見える部分だけの時短競争が激化し、これまで以上に見えない残業、時短ハラスメントや持ち帰り残業を増長させるおそれもあります。
しかし、文科省は、持ち帰り残業は原則やらないものだから、教育委員会にはその実態を把握することを求めないと言います。その上、これまで国が行ってきた勤務実態調査の継続も拒否し続けていますが、これでは国が教員の労働実態を把握することも、その時間を管理し、縮減することもできません。
何より、持ち帰り残業をしなければ終わらないほど業務が多過ぎることが問題です。広田照幸参考人は、授業以外の業務を仮に半減していったとしても、今の教員の労働時間は法定労働時間をあふれてしまう、だから結局のところ、長時間勤務の抜本的な解決のためには、教員の定数をしっかり増やすことで教員一人一人の持ちこま数を削減することしかないと指摘をされました。
かつて文科省が教員一人一日四こまを基準に乗ずる数を設定し、基礎定数を算定していたことは文科省も認めた事実です。それなのに、文科大臣は、教員一人に一日五こまから六こまが押し付けられている今の現状を追認し、乗ずる数の見直し、基礎定数の改善について、必要に応じて検討するとしか言いません。その上、文科大臣は、時間外在校等時間について必ずしもゼロにはならないと繰り返し、総理も、教員の時間外勤務は労働時間には当たらないと答弁をいたしました。時間外在校等時間には自主的な残業が含まれるからなどと言いますが、教員が勝手に残業しているわけではありません。最高裁で確定した判決でも、教員の時間外労働について、授業準備、教材研究は当然に包括的、黙示的な職務命令が及んでいると、教員の時間外の勤務は労働時間であると認められています。
現場の教員からは、大臣からこんなにも労働ではないと言われたら現場の教員としてむなしくなる、何のために頑張っているのかとつらくなる、授業準備をし、成績処理に追われ、保護者が仕事で電話に出られないと言うから学校で待機し面談対応、生徒のトラブル対応も全部全部労働ではないと、好きで在校していると思いますか、みんな帰りたいよ、これは国家ぐるみの違法労働隠しじゃないか。失望と怒りの声を上げています。
子供たちのために使命感を持って働いている教員の皆さんの思いを踏みにじり、時間外勤務を労働時間と認めない政府に、教員の長時間労働はなくせません。誰が何と言おうと教師はすばらしい仕事だと思っている、だから、この働き方を変えたいと真剣に訴えている教員の皆さんの思いに応えるためには、働かせ放題を温存する本法案を通すわけにはいきません。断固反対することを申し上げ、討論といたします。