2025年・第217回通常国会
無期転換 希望者と運用実態に乖離 研究者雇い止め問題追及
要約
日本共産党の吉良よし子議員は15日の参院文教科学委員会で、大学・研究機関での有期雇用、雇い止め問題についてただしました。
研究者の場合、労働契約法上の無期転換ルールを通算5年から10年に延長する特例があります。吉良氏は、最初の10年が経過した2023年以降、無期転換逃れの雇い止めなどルールが適切に運用されていない実態があるのではないかとして、文部科学省の調査結果を質問。同省の井上諭一科学技術・学術政策局長は、無期転換を希望する者は58・4%で、実際に無期転換申し込み権を行使した者は8・8%だと答えました。
吉良氏は、あまりに乖離(かいり)が大きいとして、その背景は何かと質問。阿部俊子文科相は「次回の調査で詳細に実態を把握したい」と述べるにとどまりました。
吉良氏は、理化学研究所で無期転換を申し込んだために嫌がらせを受けた例などを示し、無期転換ルールが効果的に活用されていないと指摘。研究者の雇用の安定よりも流動性に重点を置き、競争的経費に偏り、基盤的経費を抑制している文科省の姿勢こそ研究者の雇用が安定しない原因だと告発。稼げる大学と称して予算を出し渋り、研究者を切り捨て、学生に学費の負担増を押し付ける政治からの転換を求めました。
議事録(未定稿)
※こちらの議事録は速報・未定稿版となります
○吉良よし子君 日本共産党の吉良よし子です。本日は、大学研究機関での研究者、教員の雇用について伺っていきたいと思います。
労働契約法で、有期雇用労働者というのは、通算五年を超えると無期雇用への転換を申し込める無期転換ルールというのがありますけれども、研究者の場合には、別途通算五年から十年に延長をするという特例が設けられているわけです。この特例が設けられてから最初の十年が経過した当時、二〇二三年に、この無期転換ルールが適切に運用されているのか、無期転換逃れの雇い止めがあるのではないかということは、この間この委員会でも私取り上げてきたわけですけれども、改めて、あべ文科大臣にも確認したいと思います。
こうした無期転換逃れの雇い止め、若しくは無期転換を申し込むことを妨げるというような無期転換させない対応というのは許されないと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(あべ俊子君) 委員にお答えします。
無期転換できるルールの適用を免れる意図を持ちましていわゆる雇い止めを行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましくないと私どもも考えております。無期転換申込権が発生した研究者、教員等から無期転換の申込みがあった場合、申込時の有期労働契約が終了する日の翌日から無期労働契約となり、使用者は無期転換を拒否することはできません。
これを踏まえまして、文部科学省といたしましては、特例対象者に対して、無期転換の手続について確実に周知をしたり、無期転換の申込みを書面で行うこととしたりするなど適切な対応を取っていただくよう、大学研究機関等にお願いをしているところでございます。
○吉良よし子君 無期転換逃れの雇い止めは望ましくないし、申込みがあった場合は拒否できないものだということでした。
では、実態はどうかということで、私が質問した二〇二三年三月当時、文科省はその実態というのをまだ把握しておらず、今後調査するとの御答弁だったわけですが、その後、二〇二三年度、二〇二四年度、それぞれ研究者・教員等の雇用状況等に関する調査というのが行われたと承知をしているわけです。その結果というのも私見させていただきましたけれども、その十年で雇い止めに、若しくは契約終了となった方というのは、二三年度で千九百九十五人、二四年度で千百二十四人とのことだったわけです。ただ、この調査というのは、三月一日時点で有期雇用契約を結んでいて、その後、四月、五月の間に契約更新するかどうか、どうだったのかというのを調査したというもので、三月一日より前に雇い止め若しくは転出されたなどの実態というのは分からない調査になっているんですね。
また、その雇い止め、契約終了に伴い転出したときに、研究テーマをやむなく変えるとか、それまでの研究の場を失った方もどれだけいるのかというところもまだ分からない、要するに、分からないことがまだまだ多い調査じゃないかなと思っているわけですが。
この調査というのは今後も引き続き行うということを聞いているわけで、とすれば、やはりこの三月から五月の状況だけではなくて、その一年前、契約終了になるということが分かっている一年前から調査するとか、若しくはその研究テーマの変更の有無なども含めてより丁寧な実態把握をしていくべきじゃないかと思いますが、局長、いかがですか。
○政府参考人(井上諭一君) 委員御指摘の調査でございます。
これは、大学や研究開発法人等の研究者教員等のうち、無期転換申込権発生までの期間を十年とする労働契約法の特例の対象者の状況を把握するということで行っておりまして、通算契約期間が十年を超した者ということを対象としまして、委員御指摘のような三月一日時点、またこれ四月一日以降どうなっているかということで把握してございます。
委員の御指摘を踏まえますと、恐らく特定対象者以外にもこの調査を広げていく必要がございますけれども、この通算雇用契約期間が十年未満の研究者等の雇用状況につきましては、従来より各機関において、法令に基づいて適切に対応いただくということで対応してきましたけれども、これ、やはり我々としても、状況をきちんと把握することが必要だと思っておりまして、そのためにも、現在、無期転換申込権が発生する前に有期労働契約が終了した特例対象者の状況についてヒアリングを行うなど取り組んでまいりたいと思っております。
○吉良よし子君 是非、先ほどあったその契約終了前の状況も含めてよく実態調査していただきたいと思います。
一方、今回の調査で見えてきたことというのもあるわけですね。
そこで数字確認していきたいと思いますが、二〇二四年度の調査の中で、通算雇用契約期間十年を超した無期転換申込権が発生した者のうち、実際に無期転換申込権を行使した者というのは何人、何%ですか。
○政府参考人(井上諭一君) 二〇二三年四月一日時点で有期労働契約を結んでいた特例対象者のうち、二〇二三年度中に無期転換申込権が発生した者の総数は六千三百七十二人でございます。このうち、二〇二四年五月一日時点までに無期転換申込権を行使した者は五百六十人、割合としては八・八%となってございます。
○吉良よし子君 八・八%ということです。
続けて聞きたいと思います。
同じ調査では、対象となる研究者個人の調査もされているということですが、その研究者の希望、意向はどうだったのかということで、その特例対象者個人の結果において無期転換を希望するよと回答された方というのは何人、その回答の何%に当たるのか、お答えください。
○政府参考人(井上諭一君) 今回、御指摘の個人向けに実施した調査でございますが、調査対象である十万四千二百五十七人にアンケート調査をしたのですが、実際にはそのうちの六・〇%である六千二百七人から回答がございました。
そのうち、現在の所属機関における無期転換を希望する者は三千六百二十六人、割合としては五八・四%となってございます。
○吉良よし子君 これは資料でもお配りしたところなんですけれども、この二つの、個人の希望と、実際に無期転換権申込みした人の割合と、この二つのグラフの乖離に私はとても驚くわけですよ。母数は違うにしても、無期転換を希望しているという方は六割近くもいるにもかかわらず、実際にこの申込権を行使した人が一割に満たない八・八%にとどまっている、余りに乖離が大き過ぎるんじゃないかと思うんです。
なぜ希望している人に比して、実際の権利行使の割合というのが極端に少ないのか、その要因、背景、何があるのかというのを分析されていますか。大臣、いかがですか。
○国務大臣(あべ俊子君) 個人への調査に関しましては、調査対象でございます十万四千二百五十七人のうち六千二百七人から回答を得ておりますが、実は回答率が六・〇%にとどまっておりまして、サンプリングに偏りがある可能性がございます。この一方で、個人の調査におきまして、特例対象者が無期転換を希望しない理由といたしまして、他機関への異動を希望する等、現在の所属機関で長く勤務するつもりはないや契約期間だけなくなっても意味がないことを挙げる方が多くなっていたところでもございます。
これらの結果を踏まえまして、文部科学省といたしましては、個人の回答率を上げる策を検討した上で、また無期転換申込権が行使されない理由についても、この調査項目を精査させていただいた上で、次回の調査におきまして詳細に実態を把握したいというふうに考えているところでございます。
○吉良よし子君 大臣おっしゃったこの希望しない理由について調べましたよと言いますけれども、グラフ見ていただきたいんですけど、無期転換を希望する方は六割、この調査においては、希望しないと回答された方は一三・六%にとどまっているわけで、その方々の理由というのを先ほど並べられたわけなんですけれども、問題はやっぱり、そうじゃなくて、その六割が希望しているという回答が、そうはいっても六千人の中の六割ですからね、一定の汎用性はある回答だと思うんですけど、にもかかわらず実際に権利行使したのが八・八%にとどまっているよねというところの乖離の問題を聞いているわけなんです。やっぱりそこは分析はされていないということだと思うんです。
実際にどういう背景があるのだろうといったときに、私聞いた事例では、無期転換の申込みをしたことで嫌がらせを受けたと、そういう事例があったわけです。理化学研究所、理研で光を使って体内の様子を画像化して乳がんを安全に早期発見するということが期待される研究、これNHKの番組の特集でも取り上げられた研究なんですが、それをされている方がこの理研に無期転換を申し込んだところ、理研の側からは、個別の部屋の提供はないと、机と椅子しかないと、研究費もなく、実験スペースもなくすんだと、そしてその研究に必要な総額二億円近い実験機材をもう廃棄するか、ほかの機関へ譲渡するようにという、まともに研究に従事させるつもりがないと言わんばかりの処遇を提示されたということなんですね。
大臣、こういう実態、無期転換を申し込んだときの嫌がらせがあるということ御存じでしょうか。そういう背景あるのではないかということ、いかがですか。
○国務大臣(あべ俊子君) 存じ上げませんでした。
○吉良よし子君 知らなかったと。これ知っていただきたいんですね。
ちなみに、この方は既に降格撤回裁判というのを東京高裁でも係争中の事案でありますから、やはりこの理研で起きている事案ということで、是非文科大臣に知っていただきたいと思いますし、この理研のようなあからさまな嫌がらせというのは、そういう極端な事例というのは少ないかもしれませんけれども、例えばその無期転換権を行使したいなということを上司に相談したときに予算がないので行使しないでと言われてしまったという話も聞くわけなんですね。
だから、行使をしたら拒否はできないけれども、行使をする前にやめてねと言われているような事例もあるということで、やはりそういったこの権利を行使できないその事情、理由、背景に迫った調査というのはやっぱり今後必要だと思います。改めていかがですか。
○政府参考人(井上諭一君) 先ほど大臣からも御答弁ありましたけれども、次回調査においては調査項目も精査して詳細に実態を把握したいと考えております。また、やはり、私ども、それに加えまして個人的な調査、ヒアリングも含めまして、この無期転換申込権、行使されない理由、その他課題について詳細に把握していくようにしてまいりたいと考えております。
○吉良よし子君 是非、より詳細な実態把握、調査していただきたいと思います。
と同時に、改めて、再度になりますけれども、今回の調査では、結局、無期転換を希望していても実際には行使できていないという、そういう結果が明らかになったと思うんですね。
これ私重大だと思うんですけど、つまり、この研究者等に対しては、研究の継続のためということで十年間という特例を設けて雇用の安定を図るための無期転換ルールの制度というのがあるわけですけど、それが結局効果を上げているとは言えない状況にあるんじゃないかと、無期転換ルールが効果的に活用されていないのではないかと思いますが、大臣、そういう認識ありますか。
○国務大臣(あべ俊子君) 二〇二四年度調査の結果で、二〇二三年度中にこの通算雇用契約期間十年を迎えた特例対象者のうち八六・三%が無期労働契約を締結又は締結する権利を得たところでございます。発生した無期転換申込権を行使するか否かはこの特例の対象者が判断することになります。
なお、十年特例につきまして、二〇二四年に文部科学省の審議会におきまして検討をいたしました結果、特例が開始されたばかりの現段階においては、本制度の運用の結果、研究者、教員等の雇用の安定性の確保に一定の役割を果たしているとされたところではございます。
文部科学省といたしましては、大学等の現場におきましても無期転換ルールを一層活用いただけるよう、今後とも、本制度の運用状況を把握しながら、必要に応じて見直しを含めて考え、図ってまいりたいというふうに思います。
○吉良よし子君 一定の役割を果たしているというような評価をされているんですけれども、それは甘い評価になるんじゃないかなと思うわけですよ。個人が判断することとはいえ、結果として八・八%しか行使をしていないと。雇用の安定にやっぱりつながっていないんじゃないかって思うわけですね。
この調査結果を踏まえたワーキンググループによる若手研究者へのメッセージの中でも、文科省に期待する政策としてこの無期転換ルールの効果的な活用を求めるということが書かれているわけで、つまりは現時点では効果的な活用に至っていないよねというのが認識であるはずなんですよね。
やっぱり、そもそも今回、この無期転換ルールというのはやっぱり雇用の安定のためのルールのはずなんですよ。しかも、研究者等についてはその上限を十年としたというのは、やっぱり研究職というのは研究成果が出るまで時間が掛かるんだと、長期のプロジェクトを継続する必要があるということで十年になったということだったと思うんです。
けれども、実態としては、もう十年であろうが通常の五年であろうが無期転換になかなかつながっていないと、安定雇用につながっていないということが実態調査の中でも明らかになっているわけで、改めて、特にこの研究職、長期に研究を打ち込めるようにする、研究者の雇用の安定を確保するということをいった場合には、そうした無期逃れの雇い止めを防ぐと同時に、そもそもの有期雇用というのをもう極力減らしていく、やっぱり無期雇用を原則としていくというふうに変えていかなきゃいけないんではないかと思いますが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(あべ俊子君) 科学技術、イノベーションを推進していくためには、研究者が腰を据えて研究に打ち込める環境を整備することはまさに重要でございまして、有期雇用の多いこの若手研究者の不安を取り除くことはまさに重要でございます。
一方で、研究者は、多様な研究経験を積むことによって能力の向上が図られる面もございまして、また、最先端の研究活動の実施には最適な人材を集めて知見を結集するということも必要であることから、人材の流動性を確保することも重要であると私ども考えております。
文部科学省といたしましては、引き続き、研究者の流動性と安定的な研究環境の確保の両立を図ってまいります。
○吉良よし子君 流動性の確保と安定性の確保の両立だとおっしゃるんですけれども、有期雇用で無理やり流動させるということをしなくても、学者、研究者であれば、より良い研究環境というのを求めて流動するものなんですよ、環境を整えていくということでね、より良い環境を求めていく。むしろ期限が区切られていることで、先ほど大臣がおっしゃったように、腰を据えて研究ができない、不安があるということで、そっちの方の問題が非常に大きいと私は思うんですね。むしろ、政府の方は、雇用の安定よりも流動性にばかり重点を置くような政策になっているのではないかと。雇用の安定だという無期転換ルールですらちゃんと活用できていない実態にあるじゃないかということを今指摘しているわけです。
こうやって流動性を重視して、何だったら、予算については競争的経費の偏重して基盤的経費を出し渋っていると。その文科省の姿勢こそが、この雇用の安定、研究者の雇用の安定がしない原因になっているんじゃないかということは私指摘したいと思うんですね。
先日、学生の皆さん、また国会にいらっしゃって、高等教育の予算増やしてほしいと、大学にお金ないけど値上げは間違っている、学費の値上げは間違っているよということなども改めて訴えていらっしゃったし、学ぶことを軽視する政治はおかしいという声を、学生も教職員も研究者からも声が上がっていたわけなんですけれども、稼げる大学などと言いながら、予算出し渋って、研究者を切り捨てて、学生に学費の負担増を押し付けるという、やっぱり今の政治を変えていかなきゃいけないと思うんですよ。
雇用を安定させるためにも基盤的経費の増額こそ必要だと思いますが、大臣、最後いかがですか。
○国務大臣(あべ俊子君) 国立大学法人運営費交付金、また私学助成などの基盤的経費に関しましては、教職員の雇用を含めまして、大学、研究機関が安定的、継続的な教育研究活動を実施するための重要な経費であるというふうに認識をしているところでございます。
文部科学省といたしましては、人件費や物価の高騰も踏まえながら、令和七年度当初予算及び令和六年度補正予算を確保しながら、両方、両者を併せて支援に努めているところでございまして、特に、近年の人件費、物価高騰によりまして、各国立大学におかれましては大変苦労されながら運営しているということも聞いているところでもございます。
文部科学省といたしましては、大学の実情をしっかりと把握をしていきながら、各大学が安定的、継続的に研究、教育研究活動を実施できるよう、運営費交付金等の基盤的経費の確保に全力で取り組んでまいりたいと思います。
○吉良よし子君 基盤的経費が重要だ、確保するとおっしゃいますけど、実態としては増えていませんからね。全く増えていないんですよ。今、衆議院では、日本学術会議、解体し法人化する、政府の介入を進める法案というのが押し通されているんですけど、やっぱり私は、今必要なのは、そういう学問に対する政府の介入なんかじゃないんだと、教育予算の抜本的な拡充なんだと、予算を増やして、研究者の雇用を安定させて、学問の自由を守ることこそが必要だということを申し上げて、質問を終わります。