中教審まとめ「定額働かせ放題」 長時間労働を放置
要約
日本共産党の吉良よし子議員は21日の参院文教科学委員会で、教員の長時間労働の是正に向けた中央教育審議会特別部会の「審議のまとめ」に現場から失望の声が上がっていることを突きつけるとともに、文部科学省がメディアに介入までして長時間労働放置の実態を隠そうとしていることを厳しく批判しました。
吉良氏は、教員1人が受け持つ授業時数の上限設定と基礎定数の大幅増という現場の願いが「まとめ」に反映されず、教育新聞のアンケートでは「期待以下」との回答が96%に上ったと指摘。長時間労働是正には、従来の「働き方改革」の延長ではなく、大幅な基礎定数増など抜本的取り組みが必要だと訴えました。
吉良氏はまた、残業代を支給しない代わり月給の4%を教職調整額で上乗せする残業代不払い制度に手を着けず、調整額を10%以上にする方向性が示されたことを批判。同制度を「定額働かせ放題」と報じたNHKに対し、文科省が「誤解を与える」と抗議文を送ったことをあげ、「誤解などではなく、現場の教員の働かされ方の実態そのものだ」と強調しました。
矢野和彦初等中等教育局長は教員の長時間労働の実態に一切言及せず「誤りだ」と強弁。吉良氏が「放送への権力介入であり、こんな文書を出す暇があるなら、学校現場の声を聞くべきだ」と迫ると、委員会室に拍手が起こりました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
先ほどもお話ありましたが、昨年、令和四年度教員の勤務実態調査の速報値が公表されて以降、この一年、中教審特別部会での議論を経て、今年五月十三日にその中教審の審議のまとめというのが大臣に手交されました。この審議のまとめと要するに教員の長時間労働の是正について、私も今日質問したいと思います。
まず、このまとめで示されたそもそもの現状認識、この議論の前提についての大臣の認識を伺っていきたいと思うんですけれども。
この審議のまとめ、第一章、我が国の学校教育と教師を取り巻く環境の現状の二において、学校の教師が支援する子供たちが抱える課題は複雑化、困難化しており、結果として学校や教師の負担が増大してきた実態があるとして、その複雑化した課題として、不登校やいじめ重大事態、特別支援教育、児童虐待、外国人児童生徒、子供の貧困、ヤングケアラーなどの増加などを挙げて列挙しているわけですけれども、こうした不登校などの増加により教員、学校現場の負担が増えている、これは事実だと思うんです。
ただ、なぜこうした課題が複雑化し困難化したのかという分析がないんですね。ここに挙げられている課題というのは、私は、どれも文科省を含む政府の行ってきた施策の結果であり、決して自然現象などではないと思うんですが、大臣はどうお考えでしょうか。
国務大臣(文部科学大臣 盛山正仁君)
その今回の審議のまとめで、学校であり、あるいは教師の方々が対応する課題が複雑化、困難化しているということがこの審議のまとめにおいても書かれているわけでございますが、この不登校やいじめであり暴力行為、あるいは特別な教育を必要とする児童生徒の数が増えている、こういったことにつきましては、吉良先生は政府が行ってきた政策の結果ではないかというふうに御指摘をされましたけれども、そういう面もあるかもしれませんが、必ずしも私はそうではないのではないかと考えます。
例えば、古い話で恐縮ですが、私が子供の頃はインターネットも、そんなスマホも、そういうのは全くない時代でございました。それが今は、こうやって子供さんだってスマホまで持って当たり前といったようなことになっております。やっぱりSNSの発達というのも大きいのではないかと思いますし、また、その特別な教育を、支援を必要とする方、こういう方についても、以前からおられたとは思いますけれども、やはり環境の変化、時代の変化と言っていいのかどうか分かりませんが、増えてきているんじゃないかなと、そんなふうに感じます。
そういうような環境の変化の中で教師の方々の働き方改革をどういうふうにしていくのか、そういうことをお考えになっての今回の審議のまとめではないかなと考えております。
吉良よし子
大臣いろいろおっしゃいましたけれども、インターネット、スマホが普及してどうのこうの、環境、時代の変化と。
でも、私はやっぱり、この不登校やいじめの急増、とりわけそういうところに関して言えば、例えば先ほどお話もあったような校則のような厳しい生活指導であるとか管理・競争教育を子供たちや教員に強いてきたやっぱりこの文科省の文科行政そのものの問題があるんじゃないのかと。そういうところから、その反省から議論を出発すべきじゃないのかということを私は強く申し上げたいわけです。
もう一つ、この議論の前提ということでいえば、この令和四年の勤務実態調査の評価の点もあるわけです。これについて、審議のまとめでは、教育委員会や学校による様々な取組も推進され、改革の成果があったんだと言っていると。成果があったと言いますけれども、この勤務実態調査で示された在校等時間というのは、一日当たりの時間で見れば前回調査からたった三十分減っただけ、一日七時間四十五分の勤務時間を三時間もオーバーしている状態がいまだに続いているという状態なんです。
また、審議まとめにもあるわけですけれども、精神疾患により病気休職となった人数というのは最新の調査で六千五百三十九人と、毎年増加している、過去最高の人数を更新している状況が続いていると。学校現場の深刻な状況はむしろ悪化しているんじゃないかと。
手放しで改革の成果があったなどと評価すべきではないと思いますが、この点、大臣いかがですか。
国務大臣(盛山正仁君)
吉良先生が御説明していただいたとおり、令和四年度の教員勤務実態調査では、全ての職種で在校等時間が減少しているということでございます。ただし、それでその働き方改革が格段に進んでいるということを我々申し上げたいわけではありませんが、それなりに成果は出ている。しかしながら、依然として長時間勤務の教師も多くいらっしゃるわけでございますので、今後の取組の一層の加速化、これは論をまたないことであります。
そういうようなことを我々も認識しておりますので、文部科学省としては、学校教師が担う業務の適正化等に取り組むとともに、令和六年度の予算におきましては、小学校高学年における教科担任制の強化等のための教職員定数の改善、あるいは教員業務支援員の全ての小中学校への配置を始めとする支援スタッフの充実などに必要な予算を盛り込んでいるところであります。
今般のこの審議のまとめを踏まえまして、その教育の質の向上に向けて、学校における働き方改革の更なる加速化、教師の処遇改善、学校の指導、運営体制の充実、教師の育成支援、こういったものを一体的に進めていきたいと考えております。
吉良よし子
いや、大臣、それなりに成果があったと言いますけれども、審議のまとめでは、それなりにという言葉すらないんですね。単純に成果があったというふうに書いてあるわけで、やっぱりそこが認識ずれていると思うんです。やっぱり前回調査、二〇一六年から六年かけてですよ、一日三十分しか改善できていないわけですから、やっぱりこの間のその政策というのが全く全然不十分だったよねと、そういうところから議論を出発しなきゃいけないのに、その前提認識がやっぱりずれたところから始まっているんじゃないのかと。
それで、出された審議のまとめの内容、これ明らかになるや、もう現場職員の皆さんから多くの失望の声が上がっているわけです。教育新聞の実施したウェブアンケートでは、回答した千百五十四人のうち九六%、圧倒的多数が、この審議のまとめ、期待以下だと回答しています。
大臣、先ほどもいろいろおっしゃっていましたけど、この中教審の審議のまとめで働き方改革が確実に進む、現場の長時間労働が確実に是正できると、そうお考えなんですか。
国務大臣(盛山正仁君)
今回の審議のまとめは、我々がこういうふうに評価しているということではなくて、中央教育審議会の特別部会がそのように判断しているということが表れているわけでございます。
そして、今、吉良先生がお尋ねの、これでその現場の働き方改革が実現できるかというお問合せでございますけれども、これに関しましては、先ほど来申し上げておりますが、学校における働き方改革を含む教師を取り巻く環境整備のために、働き方改革の更なる加速化、学校の指導、運営体制の充実、教師の処遇改善を一体的、総合的に推進することが必要とされているところであり、我々としては、こういった三つの点、これについてそれぞれ、業務適正化の徹底であり、その授業時数の見直しやその働き方改革の進捗状況について教育委員会が行う仕組みの検討、あるいは保護者や地域住民、首長部局等との連携、協働、そういった様々な施策、こういったものについて取り組み、そして、それを行った上で、行うことによって教師が心身共に充実した状態で子供たちに接することができる、より良い教育を行うことができるのではないか、また、それに向けた取組をしっかりやっていくということを考えております。
吉良よし子
長々答弁されたわけですけど、更なる加速化が必要だという認識だと。ただ、更なる加速化じゃ駄目なんだということだと思うんです。今までの取組ではたった一日三十分しか改善できなかったわけですから、今までの取組の延長じゃない、更なる抜本的な改革が必要なんじゃないかという問題意識なんですよ。なのに、そういう抜本的な改革はこの今度の中教審のまとめには書かれていないわけです。
ただ、特別部会、この議事録を見てみましたが、その中では大事な意見も出ているわけです。例えば、教員の授業の持ちこま時数、これについて、改善が重要な課題であるとか、その持ちこま数の軽減が必要などの意見もあり、また、更に大事なのは、そうした持ちこま数の軽減などのために定数改善が必要だと、特に基礎定数の充実、大幅増が必要だという声が複数上がっている。私、これ重要なことだと思うんです。
けれども、この基礎定数の改善であるとか持ちこま数軽減については書いてあるんですけど、上限を設けて軽減していくと、そういったことについては中教審の審議のまとめに入っていないわけですね。これ、どういう経過なのか、局長、お答えください。
政府参考人(文部科学省初等中等教育局長 矢野和彦君)
お答え申し上げます。
教師の持ち授業時数の上限につきましては、先般、中教審の質の高い教師の確保部会において取りまとめていただいた審議のまとめにおきまして、これ、令和四年度勤務実態調査によれば、教師が受け持つ児童生徒数が少ない場合は持ち授業時数は多いものの在校等時間は短く、教師が受け持つ児童生徒数が多い場合は持ち授業時数が少なくても逆に在校等時間が長い傾向にある、こういう実態が分かっておりまして、持ち授業時数のみで教師の勤務負担を測ることは十分でないと、こういった課題がございまして、このため、国が一律に教師の持ち授業時数に上限を設けるのではなく、教育委員会や学校の実態に応じて、教科担任制のための定数活用により、持ち授業時数の多い教師について、その時数を軽減する取組と併せて、校務分掌を軽減するなど柔軟に対応していくことが望ましいと、こういったふうな記述がございます。
吉良よし子
持ちこま数の削減というのは必要だけれども、一律に国で上限を設けるんじゃなくて、教育委員会又は校長、現場でやれということだと思うんですけど、基礎定数、これについてはいかがですか。
政府参考人(矢野和彦君)
基礎定数のうち、いわゆる乗ずる数の改善、これについての多分お尋ねだと思うんですが、先般、中央教育審議会の質の高い教師の確保特別部会において取りまとめいただいた審議のまとめにおいて、乗ずる数の引上げは、国が教員定数の活用目的を限定しない基礎定数の増加となるため、必ずしも増加した教員定数が授業時数の減少のために用いられない可能性があり、このため、まずは持ち授業時数の軽減という政策目的を確実に達成する方法として、目的を限定した加配定数による持ち授業時数の更なる軽減を図り、実効性を確保した上で、乗ずる数の改善については、他の定数改善施策との関係にも留意しつつ検討を深めることが望ましい、こういった記述がございます。
吉良よし子
つまり、基礎定数をたとえ増やしたとしても、それが現場で持ちこま数軽減につながるような配置になるとは限らないから加配で対応するんだというお話だと思うわけです。持ちこま数の上限について、まあ上限というか、持ちこま数の軽減については現場に任せて上限を設けないと。一方で、基礎定数を増やしても、それが持ちこま数軽減につながるとは限りませんねと。何かもう非常に現場をばかにした議論だと思うんですよ。
何しろ、もう今、それこそ副校長、教頭、校長まで授業を持たざるを得ないほど教員不足が深刻なんですよ。四月から担任が足りないような事態もあって、先ほど確認したとおり、七時間四十五分を三時間超えるような働き方がもう各地の現場で常態化していて、その状態の中で基礎定数が増えたときに、その状態を改善するために教員を配置しない現場というのがあり得るんですかという話なんです。もっと言うならば、持ちこま数の上限を国がちゃんと設定した上で基礎定数を増やせば、必ずそのためにちゃんとその基礎定数だって使われるわけじゃないですか。これ、国の責任を放棄したような話になると思うんですけれども。
大臣、改めて、この持ちこま数の上限をちゃんと国として設けて、教職員の基礎定数を抜本的に増やすことで長時間労働の是正を図るべきと思いますが、いかがですか。
国務大臣(盛山正仁君)
質の高い教育の実現や複雑化、困難化する教育課題へ対応を図るとともに、学校における働き方改革を推進する上でも、教職員定数の改善は重要であると我々も考えております。このため、令和六年度予算においては、基礎定数の改善として、義務教育法の改正に伴う小学校における三十五人学級の計画的な整備、通級による指導や日本語指導等の充実、また、加配定数の改善として、小学校高学年の教科担任制の強化、生徒指導など、様々な教育課題への対応に必要な経費を計上しております。
学校の指導、運営体制の充実については、今回のこの中教審特別部会の審議のまとめを踏まえて、具体的な施策の実現に向けてしっかり力を入れて検討してまいります。
吉良よし子
大臣、この間も加配で何とかやってきたんだってお話ありますけど、先ほども話ありましたけど、加配だとやっぱり財務省との折衝の中で十分な人員確保できていない、そういう実態もあるわけですよ。今度の加配だって、十分に人員確保できる可能性ってあるのか、疑問があるわけです。
この持ちこま数の問題については、自民党の政務調査会が公表している提言の中でも、小学校高学年の持ちこま数を週二十こまにすることを目指すとか基礎定数化を含めなどの言葉があるわけで、やっぱりこの持ちこま数の上限をちゃんと国として設けて基礎定数を大幅に増やす、これをやることがこの働き方改革、長時間労働の是正を進めるということでは欠かせないんだと、もうそういう認識を大臣に持っていただきたいと思うんです。
これが今回の審議のまとめでは盛り込まれていない。しかも、一方で、新たに打ち出されたのが教職調整額の一〇%以上のアップ、これだけなわけです。
この教職調整額の一〇%以上のアップというのは処遇改善だという話なんですけれども、それ、処遇改善は当然必要だとは思うんですが、しかし、問題は、これによって給特法による残業代不払制度が全く変わらない、そのままだということなんですね。しかも、この制度が温存される限り、教員の長時間労働、いわゆる定額働かせ放題というような働き方がもう続くだけだと私は指摘しておきたいと思うんです。
この定額働かせ放題という言葉について、五月十三日、NHKが報道でこの言葉を使ったことについて文科省は、給特法についての現行の仕組みや経緯、背景について触れることなく、一部の方々が用いる定額働かせ放題の枠組みと一面的に、教育界で定着しているかのように国民に誤解を与えるような表現で報じるものでしたと、このような今回の貴放送協会の報道は大変遺憾ですと抗議する文書を局長名でNHK宛てに出したと。
私、これ驚きなんですけれども、これ、定額働かせ放題という言葉、誤解なんかじゃないと思うんですよ。先ほど言ったとおり、この残業代不払の給特法の下で実態として定額働かせ放題で長時間労働が蔓延している、これは事実ですよ。だから、一部の方々じゃなく教育界全体に定着している認識だからこそ、NHKもそう報じたんじゃないかと。
大臣、定額働かせ放題、この表現は、誤解などじゃなくって、現場の教職員の働かされ方の実態そのものだと、そういう認識ありませんか。
政府参考人(矢野和彦君)
お答え申し上げます。
正確に申しますと、NHKの放送は、冒頭、定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない教員の給与の枠組みはこのように呼ばれていますとした上で、定額働かせ放題とも言われる枠組み。
現行制度では、給特法では、例えば超勤四項目以外の時間外勤務は命じられないということになっております。また、給特法の第六条では、教育職員の健康と福祉を害することのないよう勤務の実態に基づいて十分な配慮がなさなければならない、こういうような配慮規定がございます。
この定額働かせ放題という言葉は、高度プロフェッショナル制度、このときに用いられた制度でございまして、この給特法の制度とは明らかに違う制度でございます。そういう意味で、この定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない教員の給与の枠組み自体がこのように呼ばれていますというのは私は誤りだというふうに考えております。
吉良よし子
いや、誤りではないですよ。法の目的だとまでは私も言いません。配慮規定があることも知っています。しかし、実態としては、結局、残業代を払わないという制度によって定額働かせ放題と言うべき働き方が蔓延する事態が引き起こされている、この事態は否定できないはずなんです。
公平公正な報道と言いながら、政府、文科省がこのような文書をNHKに出すこと自体が放送への権力介入だと思いますし、こんな抗議文書を出す暇があるんだったら学校現場の声をちゃんと聞くべきですよ。
いや、どこが誤解なの、まさか本気で教員が勝手に時間外に働いていると思っているの、怒りの声があふれていますよ。月給三十万円なら、一〇%でも月三万円しかもらえません。これで無限に残業を強いられるのは理不尽です。残業した分の残業代を出すべきじゃないですか。こういう声に、大臣、ちゃんと向き合って、長時間労働を是正するためにちゃんと残業代を支払う仕組み、これをつくるべきではありませんか。いかがですか。
国務大臣(盛山正仁君)
これまでも御答弁申し上げているとおり、特別部会、中教審の特別部会のまとめを頂戴したばかりでございます。これも踏まえましてしっかり検討させていただきます。
吉良よし子
いや、しっかり検討って、もうやる気がない答弁なんですけれどもね、お顔が。
中教審の案のままでは教員の人権が守られず、更に教員不足が進んで学校が崩壊していくという未来しかない。給料上げろと言っているんじゃなくて、仕事を減らせと言っているんです。若しくは人を増やして、調整額上げる財源で人を増やしてほしいです。こういう現場の切実な声にしっかり向き合うべきだということを申し上げて、質問を終わります。