【参考人質疑】大学の声聞かず強制
要約
大学の自治をおびやかす国立大学法人法改悪案の参考人質疑が5日、参院文教科学委員会で行われました。同案は、政令で指定する大規模な国立大学に、事実上の最高意思決定機関となる「運営方針会議」(合議体)の設置を義務付けます。
北海道大学大学院教育学研究院の光本滋准教授は、同会議の設置というガバナンス体制の大きな変更を「大学の意見を聞くこともなく上から決めている」と批判。設置を義務付ける大学は政令で指定されるため、「政府のさじ加減次第」で拡大し得ると指摘しました。
また、中期目標の審議権は学内に存在するものの、最終的な議決権は運営方針会議が持つことになり、「大学が持つ中期目標の原案策定権の意義を喪失させかねない」と主張しました。
日本共産党の吉良よし子議員は、財務や経営に強い学外者が中心となって大学の主要方針を決めることで、「稼げる大学」づくりが進む危惧があることについて質問しました。
光本氏は、北海道大学で工学部の学科の定員を50人増やし、その分ほかの学部の定員を削ることが決まったと紹介。定員が削られる学問分野は社会的要請がなく価値が劣るわけではないと強調し、「こういった取捨選択、組織の改廃が、ますます今度は『合議体の決定』という形で頻繁に行われていくのではないか」と危機感を表明しました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子でございます。
今日は、四人の参考人の皆様、貴重な御意見をありがとうございます。
それでは、早速ですが、上山参考人にまず伺いたいと思うんです。
先ほどの御答弁の中で、本法案の内容について知ったのは九月七日であったと、ただ、その前にもガバナンスについてブレーンストーミング等でいろいろなお話をしたことはあるんだと、そういうお話でありました。
一方、参考人が常勤議員を務められている総合科学技術・イノベーション会議、CSTIにおいて、世界と伍する研究大学の在り方についての最終まとめにおいては、この本法案の運営方針会議に当たる合議体の設置というのは、国際卓越研究大学の認定の条件だということが結論だったかと思うんです。それは間違いないのかと、その会議としての結論としては間違いないのかという点が一つと、あわせて、じゃ、それが、結論が出た以降、その九月七日までの、今年九月七日までの間に政府に対して国際卓越研究大学以外にもこうした合議体が必要だということを提言されたことがあるのか、あるとしたらそれはいつのことなのか、教えていただければと思います。
総合科学技術・イノベーション会議常勤議員 上山隆大君
まず最初に、国際卓越大学に関する専門調査会を開いたときには、国際卓越大学とはどのような大学なのか、その国際卓越大学に限ってガバナンスがどうなのかという議論はさせていただきました。それは、その制度を制度として成立させるのを前提としてお話をしたことは事実でございます。
したがって、その過程において他の国立大学のことを話したことはございません。つまり、他の国立大学も、当然、我々は、研究力の強化とか研究時間の担保ということに関して、幅広い意味でアカデミアのことは議論をしておりましたけれども、その専門調査会ではあくまで国際卓越大学の対応のことでございました。
同時に、ほかの大学はどうなのかということも当然ながら考えざるを得なかったとは思います。考えざるを得なかったというのは、具体的に言うと、ほかの大学に対する資金の提供をどういう形が可能なのかということは、相当専門調査会の以外のところでも議論はしました、内部においてですね。
具体的に言いますと、先ほど申し上げたように、運営費交付金によって傷んでいる多くの研究大学、あるいは地域の大学にどのようなサポートができるのかという議論をしたわけですね。それについて、恐らく、運営費交付金だけではできない大学の裁量的資金については、国際卓越大学以外においても民間資金というのが必要であるだろうという議論はいたしました。その民間資金が獲得できるような状況をつくるために合議体が必ず必要だということまでは専門調査会では踏み込みませんでした。ただ、その過程の中で、国立大学はどうあるべきなのか、我が国における大学はどうあるべきなのかについては、当然ながら、ブレーンストーミングで話をしましたけれども、先ほど委員からの御指摘にありました、CSTIがこの他の大学に対してもこの合議体を拡大させるべきだというふうに明示的にお話ししたことはございません。
吉良よし子
CSTIとしては明示的に、他の大学にもこうした合議体が必要だと明示的に示したことはないんだと、そういうお話で、やはり、じゃ、なぜこの法案の形になったのかという点についてはまだ疑問が残るところではあるわけですけれども。
あわせて、もう一点、上山参考人に伺いたいのですが、この運営方針会議、まあ合議体について、この総合科学技術・イノベーション会議の最終まとめ、世界と伍する研究大学の在り方についての最終まとめによれば、合議体の構成員の相当程度は学外者とすることが適当だとされているわけですが、とすると、具体的にはこの学外者、どのような人物を想定、望ましいとお考えなのか、教えていただければと思います。
参考人(上山隆大君)
これは、もうあくまでケース・バイ・ケースだと思いますし、私自身がどのような人がいいかということを明示的に申し上げることはちょっとできないと思います。
恐らく、考えられるのは、例えばその大学の卒業生で、その大学に対する非常に強い愛着をお持ちで、そして各方面で御活躍をされていて、これは別に財、産業界かかわらずですが、そのような方々が、大学に対してのポジティブな意見を申し上げたいという人がいるだろうとは思います。そのような方々を大学の中で選び、そこに入っていただく。これ、実は、引き受けるとなると相当時間が取られることは間違いないわけですね。そのような人たちをどのように見付け出してきて、そして運営方針会議の中に入ってくださいとお願いするかは、これはもうあくまでそれぞれの大学の中で御判断をされることだと思って、想定してどの人間ということはもちろんございませんでした。
ただ、恐らく考えられることは、一つは、大学の財務構造についてちゃんと分析できる人がいた方がいいんじゃないかなという気持ちはございました。というのは、非常に財務的にも限られた財源の中でこの国際的な競争環境の中に勝っていかなければいけないとすると、どのような形で大学の中に資金を呼び込むことができるのか、あるいは大学の中において資金の構造を考えるような人は恐らく必要ではないかなと当時は思っておりました。だけど、それはあくまでそれぞれの大学が御判断することだと思います。
吉良よし子
少なくとも財務分析できるような方がいればいいんじゃないかという思いはあったというお話でありました。
しかし、そうした外部の少数となるであろう運営方針会議の委員が本当に大学の主要な方針である中期目標、計画を決定して推進していくということで、一体どういうことになるのかというのは非常に危惧をするものです。
光本参考人に伺いたいんですけど、最初のお話の中で、この法案を進めることによるてん末に責任を誰が持てるのかと、そういうお話もありましたけれども、これ本当に進んだらどういうてん末が予想されるのかと。私は、やはり少数の学外者、もし財務とか経営とかに強い方が中心となって進めることになれば、稼ぐためには軍事研究とかそういうものもいとわない、そういう稼げる大学づくりへ進むと、そういう懸念もあると思うんですけど、その辺りも含めて、このてん末についてどう危惧されるのか、お話しいただければと思います。
北海道大学大学院教育学研究院准教授(光本滋君)
ありがとうございます。
これも未来の話ですから本当のことは分からないわけですけれども、例えば今起きていることでいいますと、私が勤務しています北海道大学では来年度、二〇二三年度から工学部の情報エレクトロニクス学科の定員を五十名増やすことになったんですね。で、ちょっと済みません、事業名、今忘れてしまったんですが、これは政府の事業で、他大学でもこういったことがかなり取り組まれているかと思います。
今、五十名増員と申しましたけれども、純粋に五十名増えるんでしたらそんなに問題はないと思います。ですが、これは五十名、本当は増やすという話ではなくて、五十名分、増えた五十名分を他の学部等から削らなければいけないんですね。これを第四期中期目標期間中にやらなければいけないということが申請の条件となっていまして、そんな条件を本学の役員会で、こっそりと言うと言い過ぎかもしれませんが、余り現場に聞くことなく決めてしまいまして、それが採択してしまいました。ですので、このためにいずれどこかの定員が五十名削られるわけです。
これはまさしく、このエレクトロニクス学科が本当に社会的要請が必要な分野なのかもしれません。しかし、じゃ、では削られる五十名は社会的要請がない、ないしは今回増えた学科よりも価値が何か劣る部分なのかというと、私はそんなことはないと思います。
こういった取捨選択といいますか組織の改廃というものが、ますます今度は合議体の決定という形で頻繁に行われていくことになるんではないかということを大変危惧しております。
吉良よし子
いや、本当にそういうことがもし進んでいけば、強力に進んでいけば、やはり大学への自治の問題だけじゃなくて学問の自由が本当に侵される危険がある中身じゃないかなという危惧、新たにしたものです。
今日はありがとうございました。終わります。