【義務教育標準法改正案 参考人質疑】少人数学級さらに
要約
参院文教科学委員会は25日、公立小学校の学級人数を35人以下に引き下げる義務教育標準法改正案の参考人質疑を行いました。「35人は通過点」だとして少人数学級をさらに進めるとともに、教員定数増を求める意見が出されました。
陳述した中嶋哲彦名古屋大学名誉教授は「40年ぶりの見直しを評価はするが不十分だ」と指摘。豊かな学びと学校生活を保障する観点から少人数学級の必要性を強調しました。
千葉県南房総市教育委員会の三幣(さんぺい)貞夫教育長は、新型コロナ感染拡大に伴う学校休校が解除された際、虐待通報が多発する中で、教員に子ども一人ひとりへの声かけなどを求めたことを紹介。「しかし、30人を超える学級ではとても無理だった。30人未満を実現してほしい」と述べました。
名古屋市教委の藤井昌也教育次長は、少人数学級の実施に伴い自治体に新たな財政負担が生じるとして、国の支援を求めました。
質問に立った日本共産党の吉良よし子議員は、段階的な導入となったために少人数の恩恵を受けられない子どもが出てしまうことについて各参考人に見解を求めました。中嶋氏は「ここ数年、小学校では毎年2000ぐらい学級数が減っている。少人数学級で教員が増えても全体の教員数は差し引き同じか、減るかもしれない。恩恵を受けられない子を出さないために、文科省は教員を増やそうともっと努力すべきだった」と述べました。
吉良氏は、学力面からの少人数学級の効果検証について質問。中嶋氏は、学力一辺倒の評価は他の問題を見落とす原因になっていると答えました。
また、中嶋氏は教員不足を解消する上で、不安定な非正規雇用に頼ることを前提にした国の教員配置基準の是正を要望しました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
三人の参考人の皆様、今日は本当にありがとうございます。
さて、早速ですが、この少人数学級に関わる議論というのはこの間、長年されてきているわけで、その中で文科省は、長年、少人数学級だけではなくチームティーチング、習熟度別指導など、少人数指導も含め地方自治体が選択的に行うことが効果的と答えてきたという経緯があって、そこで、先ほども三幣参考人もおっしゃっていましたけど、地方自治体によっては少人数学級ではなくて少人数指導で対応してきたところもあると聞いているわけですけれども、今回、少人数指導ではなく少人数学級を進めることになるわけで、その意義について、是非三人の参考人それぞれの御意見伺いたいと思います。
参考人 千葉県南房総市教育委員会教育長・教育再生実行会議有識者 (三幣貞夫君)
冒頭申し上げたことに尽きると思います。一人一人の子供たちの表情を見て、一人一人の子供たちの声を聞き、声を掛けられる状況に近づいていくということになると思います。
参考人 名古屋市教育委員会教育次長(藤井昌也君)
少人数指導という話と学級という話があるんですが、私は、少人数学級が基盤にあって、その上に乗っていくものが少人数指導ではないかと思っています。少人数指導が基盤にあって学級はできないものですから、やっぱり少人数学級というところをまず踏み出していただいて動き出したということはとてもうれしいことで、決して通過点にならず、本当にどんどんやっていってほしいと思っています。
以上です。
参考人 名古屋大学名誉教授・愛知工業大学教授(中嶋哲彦君)
文科省が少人数指導という言葉を使い始めたのは、少人数学級が実現し難い、しにくい、難しいという中で少人数指導を選択したというふうに思います。その際の問題は、少人数指導が学習集団と生活集団を分断したということなんです。つまり、学級サイズはそのままで、場合によってはクラスを二つに分けて少人数指導をするということですね。これは学習の集団と生活集団が分かれちゃっているんです。
でも、生活と学習分けてよかったのかという問題です。同級生の中には小学校時代、僕は余り勉強できない子だったんですが、すごく勉強できるけれども掃除全然しないやつがいるんです。だから、生活と学習というのがどうつながっているか。中には逆がいます。勉強できないけどクラスのために一生懸命やっている子がいる、僕だったんですが、いるんです。そういう子もいるんです。だから、それでもって人間を全体として捉えることができるという、だからお互いを評価し合えるということですね。勉強できなくてもあいつはいいやつだ、信頼できるという、それが人間を育てていると思います。
その意味では、少人数指導、とりわけ習熟度別に分けるなんていうのは犬山市は完全に反対しましたけれども、そのやり方ではやっぱり駄目だったと思います。ですから、今回、少人数学級で、まだ不十分でありますけれども、小さなクラスサイズでもって生活と学習を共にする集団をつくっていくという方向を追求していってほしいというふうに思います。
吉良よし子
生活と学習を共にする集団をつくるという意味での少人数学級、すごくよく意義が分かったかと思います。
あわせて、先ほど来、効果検証ということも言われております。今回の法案にはその検討事項として少人数学級の効果検証と、条文には学力の育成という観点も例示されているわけですけど、改めてその学力といったときに、先ほど来あるとおり、数値とか学力テスト、ペーパーテスト、もう点数ではないところにその効果が見られるのではないかというのがこの今の委員会での議論、ずっと出てきていると思うんですけれども、中嶋先生の資料でも学力フェティシズムの行き詰まりがあると。やはり全体を捉える視点に立って学校教育を評価することが大事と書かれているわけですけど、やはりこの少人数学級の効果って考えたときには、そうしたいわゆる学力ではない評価というのが大事だと思いますが、その点について中嶋参考人、お願いします。
参考人(中嶋哲彦君)
学力フェティシズムと書きましたけれども、日本はやっぱり学力一辺倒になってしまっている、政策決定の際にそこだけ見てしまっていると。でも、これ国際的に見ると、日本は学力高いことになっていますよね、PISA調査などを見ると。その意味では学力高いんです。だけど、じゃ、問題ないかというと、問題がいっぱいあると。そのいっぱいある問題、それは、ここに書いているような問題いっぱいある、それを見落とす原因になっちゃっているんです、学力フェティシズムは。つまり、どんなに子供たちがしんどい思いをしていても、学力しか見てないので、本当に対応すべき問題に対応できていないんです。
海外の若者たちがやっぱり生き生きしているのは、自分が生活しているところとやっぱり向き合っているからなんですよ。自分が学んだことをどうやって生かして自分が生きていくか、自分がどう貢献できるかという、それを考えるチャンスを持っているからなんですよね。だから、決して学力が高くなくたって自信を持っています。でも、日本の子供たちって、学力が高くない子供は自信持てないんですよ。
なので、学力だけ見ててちゃ駄目だというのはそういう意味です。そこも評価をするべきだということです。
吉良よし子
やはり学力、いわゆる学力じゃないところをきちんと評価してこそ教育全体の効果というものが実感できるんだという大事なお話だったと思いますし、やはり学力ということの見直しが今求められているなということを強く実感した次第です。
さて、この間、先ほど来、やはり今回の法案は通過点であると。やはり三十人も求められるし、中学、高校、特別支援学校もというお話が先ほど来あるんですけど、法案、今回の法案そのものを見ても、小学校の中でもその恩恵を受けられない子たちがいる問題もあると思うんです。段階的実施ということになっているので、来年度の新二年生より下の子は少人数できるんですけど、新三年生以上は卒業まで四十人学級のままと。地域によって先行するところもあって、要するに自治体によって差が出てしまうということも問題だと思うわけで、やはりこの国の段階的実施という線引きによって少人数学級の恩恵を受けられない子供が出てきてしまう。この問題について、三人の参考人の皆様、それぞれ御意見伺わせていただきたいと思います。
参考人(三幣貞夫君)
まず、私自身の反省もありますけど、意識を変えることが必要かなと思っております、今回のことではですね。
といいますのは、私は団塊の世代ですので、小中学校一クラス五十人で育ちました。高校は何と五十五人でした。教員になったときが四十五人でした。四十人に変わったとき、少なくなったなと思いましたよ。そういう自分の経験からいいますと、三十人前後の子供を担当している教員を見て、何だ、これだけの数の子供を掌握し切れないのかなという見方が心の中のどこかにあるわけですね、自分の経験からいって。それは非常にまずいことだなということを反省したのが今回のいろんな話の元になっております。
ですから、是非、何というんですかね、エビデンス云々じゃなくて子供の数、担当する子供の数が少なくなっていくことはいいことだという前提に立っていただきたいことと、もう一つ私どもがちょっと心配しているのは、一学級の子供の数が少なくなれば自動的に学力が高まるかということではないということですね。二十人になっても十五人になっても、教師あるいは教育委員会の不断の努力がないとやっぱり学力あるいは人間形成というのは保障できないという、そういう思いは私ども持っていなくちゃいけないと思います。
あと、段階的ということですけど、過去の変化も段階的ですので、これはいろんなことを考えればやむを得ない措置だと、そんなふうに思っております。かえって一挙に全学年変わることの私どもの方の負担の大きさの方は、ちょっと正直申し上げてきついのかなというふうに思います。
以上です。
参考人(藤井昌也君)
おっしゃられるように、恩恵を受けない子供もいるというのは見方によっては確かだと思いますが、やはり制度なので、どこかでのスタートをしないとやっぱり動いていかないのかなと。
この少人数学級というのは、私は、該当する、例えば来年度でいえば小学校三年生が少人数学級になったからそれでいいわけではなくて、学校全体がそれを起爆剤として変わっていかなきゃいけないと思っているんです。それは、やっぱり学校の関係者もだし教育委員会の関係者もですし、これはあくまで三年生の三十五人ですけど、それをやることによってやっぱり教育をどうやって変えるのか。そのためには、先生方の、また私たちも価値観というものをもうやっぱり見直すというのか、そこをやっぱりいろいろ話し合って、いろんなことに触れ合うことが幅が広くなっていくんじゃないかなというふうに感じています。
参考人(中嶋哲彦君)
先ほど二十五万人の署名と言いましたけれども、あの中の多くの方々は恩恵を受けない子供たちの親だと思います。一生懸命努力したけれども、その人たちの子供さんには及ばなかったということですね。本当にそれは、何か私、署名集めた者ではあるけれども、何か裏切ったような気持ちになっています。何とかならないものだろうかというふうにあれこれ考えています。
それは、一つは、ここ数年間を見てみると、平均すると一年間に二千学級ずつぐらい小学校って減っているんですね。だから、二千学級減るということは、二千プラス係数がありますから、もうちょっと多くの人数の教員の数は減っていくわけですよね。クラスは少なくなるんです。今回の措置でもって学級数は増えていきますけれども、とんとん、教員全体の数からいえばとんとんかあるいは減るかもしれないという状況です。
増やそうという努力をやっぱりここですべきだったんだと思うんです。それをなかなかしっかりした議論ができないのは、きちっとした数字を私たちは持っていないからです。文科省は持っていると思うんですが、私は持っていません。なので、議論が展開しにくいんですけれども、それはもっと精査して、頑張りようがあったんじゃないか。
これは文科省に、応援すると言いながらあれですけど、応援はしたいんですけれども、そこをもうちょっとやってほしい、粘り強くやってほしいと思います。情報を公開しながら、私たちにも検討させてほしいと思います。
吉良よし子
二千学級も減ってきていた、それも問題だと思いますし、やはりこういうときだからこそ、学級数を増やしてでも少人数学級を早く多くの子供たちに経験していただきたいと私も思う次第です。
そのためにも、やっぱり大事なのが教員不足の解消だと思うわけです。先ほど来お話があって、教員不足、穴空き問題、臨時的任用の講師も確保できないという話を聞いているわけですけれども、まず三幣、藤井参考人には、それぞれ現場でその教員確保で苦労されている実情などを是非お示しいただきたいのと、あわせて、中嶋参考人からは、その教員不足の背景に何があるのかと。とりわけ私なんかは非正規教員が増加してしまったことが原因ではないかと考えるのですが、その点について御意見をいただければと思います。お願いします。
参考人(三幣貞夫君)
非正規教員が特に多くなったという実感はありません。ただ、非正規教員を毎年雇用しているわけですけど、変わってきたなというのは、年齢的に非常に高くなってきています。六十歳を過ぎて、やる気のある人で、非正規で講師として働く人たちが増えてきておりますので、私とすればこれは悪いことではないという、決して教員試験に挑戦しようとしていてうまくいかなかった人たちが講師に来るというだけではなくて、いろんなことを経験して、教員免許状を持っていて、六十前後になって講師をやる、そういう人たちが学校に入るということは悪いことではない、そんなふうに捉えています。
参考人(藤井昌也君)
先ほどもどういう、いろんな働き方ができるような形での採用をといったような話もしたと思いますけれども、名古屋では、確かに途中、常勤の講師がやっぱり少なくなって、非常勤で働いている方に声を掛けて常勤でやっていただくという形を取っています。
非正規を正規にするというような道筋は、先ほどの働き方で応募してもらうということと、それから、レビューを付けてのやっぱり試験というものがあるものですから、その試験をきちっとクリアするための方策は、私ども教育委員会とか、それから学校現場の校長先生方もいろいろ頭を使いながら、先生方には実際にアドバイスというのか、いろんな指南はできるんではないかなとはちょっと個人的には思っています。
参考人(中嶋哲彦君)
私、今の大学には、ちょうどこのぐらいの時期になるといろんな高等学校から、高校ですけど、高等学校から講師を紹介してほしいという電話が掛かってきます。来年の四月からもう穴が空いているんです。だから、それを埋めるために何とかしてと。だから、おたくの卒業生で、あるいは今度卒業する人でいらっしゃいませんかという電話がいっぱい掛かってきています。やっぱりこんなに足らないんだなということを認識します。
じゃ、学生はどうかというと、就職は不安なんですよ。非常勤講師であるとか常勤講師といっても来年どうなるか分からないという中で、そちらを待っているわけにいかないんですよね、この時期まで。ですから、どこかの民間企業を探してもう決めている人が多いです。それをやめて不安定なところに行くという若者は、よほどのことじゃないと、よほど家族の了解が得られないと、そんなのとてもじゃないけどできません。
だから、やっぱりこれは教育委員会さんもきっと採用がいろんな不安があってできないと思うんですが、最初から数が割れているような配置しかできない多分基準で動いてしまっている。だから、その基準を変えてあげないと教育委員会は採用できないんですよね。だから、教育委員会が安心して採用できるような基準をこれは国会として作ってください。そうすれば、不安を抱く若者は減ると思います。で、教職志望者は増えるはずです。増えてこないと、やっぱり質は上がってこないです。教員の質を上げたいんだったら、安定化するということはやっぱり必要だと思っています。
吉良よし子
教員定数増やさなきゃと思いました。
ありがとうございます。