【質疑・討論】経営難の私学を淘汰 理工系支援法案を批判
要約
日本共産党の吉良よし子議員は2日の参院文教科学委員会で、大学の理工系学部再編等を支援する独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法改定案は事実上の文系つぶし、「経営難の私学を淘汰(とうた)するもの」で、大学教育を受ける機会を奪うものだと批判しました。
同案は同日の参院本会議で賛成多数で可決・成立。日本共産党は反対しました。
質疑で吉良氏は、同案の方向性を示した「教育未来創造会議」第1次提言は、「大学全体としての規模を抑制する」ことを前提に、「修学支援新制度の機関要件の厳格化」を掲げていると指摘。「機関要件」は給付奨学金制度の対象条件を「給付を受ける学生ではなく大学に対して」設けるもので、「厳格化」で現行の3条件中「定員充足率8割未満」の規定さえ当てはまれば支援対象外になることから、対象外の大学等は「現状15校から444校、30倍になる」と批判しました。
日本私立大学協会が「機関要件」で「低所得層の学生が学びたい高等教育機関で学べない矛盾」が生じていると指摘していると強調。「学生自身何ら責任のない『機関要件』で支援対象外とするのはあってはならない」と主張しました。永岡桂子文部科学相は「(有識者会議で)質の高い教育を行う大学等が新制度の対象外とならないよう検討している」と答えました。
議事録
吉良よし子
日本共産党の吉良よし子です。
今回の法案を提出するに至った背景には、先ほどの提案理由説明にもありました教育未来創造会議の第一次提言があると承知をしております。
この提言では、成長分野への大学等再編促進として、本法案の再編に向けた初期投資や開設年度からの継続的な支援だけでなく、大学全体としての規模を抑制する仕組みの整備、私学助成に関する全体の構造的見直し、計画的な規模縮小、撤退等を含む経営指導の徹底、修学支援新制度の機関要件の厳格化、大学設置に関わる規制の大胆な緩和を挙げています。
大臣、つまり、この提言で示された本法案の内容を含めた政策というのは、全て一体に、セットで行うということでよろしいですか。
文部科学大臣(永岡桂子君)
吉良委員のおっしゃいますように、教育未来創造会議の第一次提言におきましては、今般の基金を通じました学部転換等の支援に加えまして、大学全体としての規模を抑制する仕組みの整備、そして私学助成に関する全体の構造的見直し、計画的な規模縮小、撤退等も含む経営指導の徹底、そして修学支援新制度の機関要件の厳格化、大学設置に係る規制の大胆な緩和について提言をされております。
文部科学省におきましては、教育未来創造会議第一次提言の工程表に基づきまして、これらの事項に関し、それぞれしっかりと取り組んでまいります。
吉良よし子
それぞれしっかりと取り組んでいくということは、やはり全体、セットにして取り組んでいくということだと思うわけですけれども、つまり今回の再編支援というのは、単純に再編を支援するだけじゃなくて、大学全体としての規模を抑制するなどということも前提としてあると。単純に、現状の大学に加え、大学の学部に加えて理工系の学部が増えていくっていう話じゃなくて、全体縮小の下で理系を増やそうと。
とりわけ、現在多くの私立大学は文系学部が中心となっているわけですが、そういう下で大学規模を抑制しつつ理工系学部を拡大とするとなると、つまり結果としては文系学部を縮小せざるを得ないと思うわけです。つまり、これ事実上の文系潰しになるんじゃないかと思うんですが、大臣、いかがですか。
文部科学大臣(永岡桂子君)
本法案は、成長分野への学部再編等に取り組もうとする大学、高専の主体的な改革を後押しするものでございまして、特定の分野の学部等の廃止ですとか縮小を前提とするものではございません。このため、文系学部でも、理学、工学、農学分野を含む学位を授与する学際的な学部であれば支援対象とすることを、これはしっかりと想定できるというところでございます。
文部科学省といたしましては、大学の教育研究が継続的に安定的に実施できますように、基盤的経費の確保もこれしっかりと取り組んでまいります。
吉良よし子
いや、主体的な取組の後押しっておっしゃいますけれども、でも、事実上、理工系、理工農学部を増やす、そういう取組への支援ってことになるわけで、そうなると、全体の規模縮小する中で理工系学部を増やしましょうってなると文系が減るんじゃないですかって言っているんですけれども。
文部科学省高等教育局長(池田貴城君)
お答え申し上げます。
それぞれの学部転換をどうするかは基本的には各大学の御判断になりますけれども、結果的に理系の学部を増やすことによって文系の割合が減ってくるということはあり得ると思います。
吉良よし子
あり得るっていうことですよね。それはやっぱり私違うんじゃないかと、事実上に文系潰しっていうのは違うんじゃないかって思うんですよ。
あわせて、大学設置に係る規制の緩和っていうのは、従来よりも必要となる教員数や校舎面積などの基準が下げられると、そうなると質の面でも不十分な理工系学部が粗製乱造されかねない懸念もあるわけで、それでいいのかっていうのは私言いたいところだと思うわけです。
しかも、さらに、私学助成に関する全体の構造的見直しとか撤退等も含む経営指導の徹底という方針は、つまりは経営難となった私学をどんどん淘汰するっていう話で、文系を潰していく、私学を淘汰していくっていう話がこの法案には含まれているっていうことです。しかも、そういう私学をどんどん淘汰する話の文脈の中で修学支援新制度の機関要件の厳格化、これが挙げられているというのも重大だと私は思うわけです。
修学支援新制度っていうのは、つまりは学生への給付奨学金制度ってことなわけですけど、給付を受ける学生個人の資質とかの問題ではなくて、その学生の通う大学に対して制度の対象にするかどうかの要件、機関要件を掛けるという仕組みで、現在は、お配りした資料の左側、直前三年度全ての収支計算書の経営収支差額がマイナス、それから直前年度の貸借対照表の運用資産、外部負債がマイナス、そして直近三年度全ての在学学生数が収容定員の八割未満と、この三点全てに該当する場合は修学支援制度の対象外になるという仕組みになるわけですけれども、じゃ、現在この機関要件に該当して修学支援の対象外となっているのは何校ですか。
政府参考人(池田貴城君)
お答え申し上げます。
修学支援新制度の対象校は、令和四年度で十五校が要件を満たさず対象外になっているということでございます。
吉良よし子
十五校、大学、短大で四校、専門学校で十一校ということですけれども、じゃ、これを提言の言うように厳格化したらどうなるのか。先ほどの教育未来創造会議の提言では、定員充足率が収容定員の八割以上の大学とするなどの機関要件の厳格化を図るというふうに書いてあるわけですね。つまりは、現行はこの三つの条件全てが重なった場合のみが対象なんだけれども、その中から定員充足率八割未満という要件を外して独立させて、それだけでも当てはまれば修学支援制度の対象外にできるようにするという話になってくるわけですね。
この提言の条件をそのまま機械的に当てはめた場合、じゃ、新たに対象外となる大学というのはどの程度の数となると見込んでいらっしゃいますか。
政府参考人(池田貴城君)
お答え申し上げます。
大学、短大、高専について申し上げますと、収容定員充足率が八割未満を独立した要件として、今御指摘のように、そのまま当てはめた場合には、百十八校が新たに対象から外れることになります。
ただし、今、吉良委員配付資料にもございますように、右側にメモがございますように、有識者会議におきましては、このうち収容定員が八割は切っていても五割以上のものというのが百三校ございます。この百三校のうち、定員割れであったとしても質の高い教育を行う機関は引き続き制度の対象になるようにすべきだという御意見もありまして、例えば、就学、就職率が九割を超える機関については猶予を行うという案、これも議論をされているところでございます。
吉良よし子
いや、数を伺っているんですね。様々検討されているのは分かっていますけど、機械的にそうしたら新たに修学支援制度に外れてしまうと思われる学校の数はどの程度ですかということで、先ほど大学、短大、高専の数だけおっしゃられましたけど、専門学校も含めて、若しくは定員充足率八割未満を外した場合の残りの直近の三年度全ての経営収支差額がマイナスと、直近年度の運用資産、外部資産、負債がマイナス、これの重なった部分とかでも新たな対象が出てくると思うんですけれども、それ全てでどれぐらいかって聞いているんです。
政府参考人(池田貴城君)
専門学校につきましては、規模など大学とは異なっておりますので、少し扱いを変えた議論をしております。収容定員充足率が五割未満を基準とした場合、専門学校については二百三十九校が対象から外れることとなりますが、地域の社会、経済社会にとって重要な専門人材の育成に貢献していると設置認可を行っている都道府県が、都道府県知事が認める場合には猶予を行うという方向で議論が進められているところでございます。
このほか、定員充足率を独立の要件としたことで経常収支差や外部負債の超過の要件に抵触することとなる機関は七十二校ございます。
吉良よし子
つまり、いろいろおっしゃって、文科省の中では更に条件を課す中で数を絞っていこうというお話もされているようですが、提言の中身をそのまま実施すれば、現状十五校から全部合わせて四百四十四校、約三十倍、全体の八%、一割近くの学校が支援の対象外となる、そういう数字が出てきてしまうと。
かなりの規模であり、やっぱり私、教育未来創造会議の議論というのはかなり乱暴と言わざるを得ないと思うんですよ。だから文科省でもそういう様々な要件付けなきゃいけないねっていう議論になっちゃっていると思うんですけれども、この未来会議の中では、こうした厳格化を進めるのは大学の経営困難から学生を保護するためと、学生を守るためって言っているんですけど、本当にそうなのかと。
日本私立大学協会は、この機関要件によって低所得層の学生が学びたい高等教育機関で学べない矛盾が生み出されているよと、選べなくなると、そっちに行けなくなると、行きたいけれどもその学校が修学支援制度適用外になっていればそこに行けなくなると、そういう矛盾があるよという指摘もありますし、また、青森のある大学、機関要件の条件で、経営悪化で制度から対象外になったんだけれども、ただ、他の学校との兼ね合いで、同じ、国と同様の支援を実施すると、そのために、その財源を捻出するために経営が改善してきていた系列の高校の教職員の給料を不支給にすると、一時金を不支給にするなどの対応で何とか自校の制度をつくったという話を系列校の教職員に伺いましたけれども。
これ、学生を守るという話にはならないと思うわけで、やっぱり大臣、こういう修学支援新制度の機関要件そのものが不要だし、厳格化なんてもってのほかと、学生自身何ら責任のない機関要件で支援の対象外とするのはあってはならないと思いますが、大臣、いかがですか。
文部科学大臣(永岡桂子君)
吉良委員にお答えいたします。
高等教育の修学支援新制度は、低所得世帯の学生を対象とする、大学などでしっかりと学んで社会で自立をして活躍することができるように経済的負担の軽減を図りまして、格差の固定化の解消ですとか少子化の進展に対処するものでございます。このために、本制度の対象機関におきましては、社会で自立をして活躍できる人材の育成を担っていただく必要がございます。
このような考えから、大学等での勉学が職業に結び付くよう、学問研究と実践的教育のバランスが取れていることなどを大学等が対象機関となるための機関要件を求めているところでございます。現在、機関要件の見直しに係る制度設計につきまして有識者会議におきまして検討をいただいているところですが、一定程度の定員割れがあったとしても、大学にですね、質の高い教育を行う大学等が修学支援新制度の対象外とならないようにするなど、適切な要件について検討をいただいているところでございます。
なお、修学支援新制度におきましては、学校が対象外になったとしても、支援対象の在学生につきましては引き続き支援を受けることができることとなっております。また、文部科学省といたしましては、学生等に不利益が生じることがないよう、引き続き必要な対応を行ってまいりたいと考えております。
吉良よし子
いや、学生を支援するための制度に機関要件は必要ないと、厳格化なんてもってのほかだということを申し上げて、私の質問を終わります。
〈反対討論〉
吉良よし子
私は、日本共産党を代表して、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
本法案は、デジタル、グリーン等の成長分野などに今後人材不足が生じるとの見込みから、主に私立大学を対象に理工系学部への学部編制、再編等による転換を財政的に支援するものです。
理工系学部の拡大は、教育未来創造会議の第一次提言に示されたものです。提言は、成長分野への大学等再編促進として、本法案にある再編に向けた初期投資や開設年度からの継続的な支援とともに、設置認可の審査の厳格化を含む大学全体としての規模を抑制する仕組みの整備、定員割れ大学に対するペナルティーの強化などの私学助成に関する全体の構造的見直し、修学支援新制度の対象外となる大学の拡大となる計画的な規模縮小、撤退等も含む経営指導の徹底、修学支援新制度の機関要件の厳格化も求めています。
つまり、経営が困難とされる地方や中小の私立大学の早期撤退の促進、淘汰を進め、多くの私立大学が担っている文系学部の再編、縮小を進める文系潰し、私大潰しにほかなりません。経営困難な大学を淘汰することで地方から大学教育を受ける機会を奪うのではなく、地域のニーズに応じて多様な教育研究を展開している地域の貴重な高等教育機関として国が積極的に支援をすべきです。
また、大学設置に係る規制の大胆な緩和として大学設置基準が本年十月に改定され、必要な教員数、講師、校舎の面積などの基準を引き下げる規制緩和が実施されました。このまま学部再編を進めれば教育研究機関としての条件整備が不十分な理工系学部が増える可能性があり、学部の粗製乱造にもつながりかねない点は問題です。
本法案での助成を受けるためには、従来行われている設置審査に加え、政府が定める基本方針に従う必要があります。経済成長が見込めると政府が認める学問分野に適合しているかどうかを審査することは、学術の中心である大学を国家、産業界に従属させることにつながり、学問の自由を脅かしかねません。
学問の自由を尊重し、運営費交付金や私学助成といった基盤的経費の抜本的増額こそ踏み出すべきであることを申し上げ、討論を終わります。