吉良よし子君
日本共産党の吉良よし子です。
 今日は、法案のうち、多くの関係者が危惧、反対している不登校に関する部分について質問をいたします。
 まず初めに、参考人としてお越しいただいた神戸大学名誉教授の廣木克行先生に伺います。
 廣木先生は、各地で不登校の子供、保護者の相談に乗ってこられたと伺っております。私は、不登校の子供を支援する上で、子供の状態はもちろん、その状態の意味を理解することが重要と考えますが、先生のお考えをお聞かせいただきたい。また、その点から今回の法案をどのように見ていらっしゃるか、お聞かせください。
神戸大学名誉教授・廣木克行君
廣木と申します。よろしくお願いいたします。
 不登校への支援活動の経験を踏まえてお答えいたします。
 不登校の子供の支援で最も大切なことは、不登校になった子供の心を理解することです。不登校支援の難しさは、支援する人の関心が不登校という当事者の状態に向けられやすく、心に関心を持つ人が非常に少ないという点にあります。しかも、心の理解を伴わない支援が当事者にとって新たな苦しみの原因になることが、審議をされた議員の皆さんにも余り知られているとは思えません。
 不登校の子供は二重の苦しみを抱えます。二重というのは、一つは、不登校になる前に競争的で管理的な学校生活や人間関係のもつれなどを通して抱え込まされた根源的な苦悩です。もう一つは、不登校状態に陥った後、親や親族あるいは教員などが示す反応に追い詰められ、行くべき学校に行けないことで自己否定の感情を深めていく二次的な苦悩です。
 重要なのは、この二重の苦悩を抱えた子供が陥る精神状態です。それは、自らの過去と現在と未来の深刻なる切断と表現できます。現在の自分から過去と未来を切断することで、崩れ落ちそうな現在の自分を守りつつ、辛うじて生きている状態と表現できます。
 この話をすると、不登校を経験した青年たちの多くが、自分が経験した苦しさの意味がよく分かると言ってくれます。そして、青年たちが取り戻す時間の順番は、まず現在、そして未来、そのずっと後に過去ということです。
 その現在を取り戻すための葛藤状態にある不登校の子供に未来志向を促す学校や勉強の話をすることは、それだけで自らを守るために固く閉ざした未来への扉が無理にこじ開けられることに等しく、同時に、その話を拒絶している自分自身への絶望感を強めることにつながります。また、思い出すのも怖い過去の扉をこじ開ける原因追及の問いかけは、辛うじて維持しているアイデンティティーを壊されるような苦痛を子供に与えます。
 不登校の子供の家庭内暴力は、このような働きかけを受けた後に多く見られる命懸けの自己防衛の反応であることを知っていただきたいと思います。不登校の子供が学習への意思、つまり未来への関心を示し始めるのは、安心して自分のままでいられる家庭などの居場所で安らかな時間を必要なだけ過ごすことを保障された後に訪れる、安全で安心な現在を実感できた後のことです。
 ここで、法案についてですが、理解し難いのは、不登校対策法でありながら、現在を取り戻す段階にいる最も苦しい子供に対する対応がほとんど明示されず、附帯決議や何々などの等の解釈の中で主に説明されていることです。そのことに不登校関係者の多くが深い危惧の念を抱いていることを議員の皆さんには是非念頭に置いていただき、最後まで慎重には慎重に審議を尽くしていただきたいと思っています。
吉良よし子君
不登校の子供たちが置かれている状態の意味というものがよく分かるお話だったと思います。
 もう一問、廣木先生に伺います。
 本法案では、児童生徒の意思の尊重が書かれており、衆議院での質疑では、子供を追い詰める心配はないとの答弁もありましたが、その点について先生はいかがお考えでしょうか。
廣木克行君
お答えいたします。
 不登校の子供の意思の尊重は容易なことではありません。そもそも子供の意思を知ること自体が簡単なことではないからです。さきに述べた二重の苦悩を抱え、現在を取り戻す葛藤の中にいる子供の場合、その心に関心を持って寄り添う信頼関係を築けた人にしか自分の思いを語らないからです。
 しかしながら、そういう信頼関係を築ける人が現在の学校に少ないというのが現実です。条文にあるから大丈夫と言われても、現実は、尊重されるべき意思の理解さえ難しい状況にあると言わなければなりません。信頼関係のない人から形式的な意思の確認とそれに基づく支援は、不登校の子供を更に傷つけ、引きこもり状態を長引かせる可能性が高いことを改めて強調しておきたいと思います。
 法案では、意思の尊重という文言は確かに第三条の四号にあります。しかし、それは、義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者という国民一般にはなじみの薄い言葉にしか係っていません。この条文の文言に不登校が含まれると読み取ることのできる教員も決して多くはないと思います。その一方で、不登校の児童生徒に特化した条文を見ると、意思の尊重や意思の把握という文言は一切ありません。
 以上の事実に照らすとき、法律の説明に際してその趣旨を周知徹底していただくことはもちろん重要ですが、予想される子供たちの苦悩を避けるためには、文言を見ただけで誰にでもその趣旨が伝わるように、慎重に審議の上、この法案を改めることが必要だと強く思います。
 以上です。
吉良よし子君
廣木先生、ありがとうございました。
 文科省には、この不登校の子供たちの意思の尊重、これが重要であることを関係者に周知徹底することを強く求めた上で、次に提案者に伺いたいと思います。
 本法案第二条、不登校児童生徒の定義について、先ほどもありましたが、不登校という状態を定義すればよく、子供を不登校児童生徒とそうでない子に二分するような定義はやめてほしいとの抗議の声が多く寄せられています。しかも、本法案では、不登校児童生徒を、学校における集団の生活に関する心理的な負担その他の事由のために相当の期間学校を欠席する児童生徒と定義しており、不登校は子供の心の問題であると、あたかも子供自身が悪いかのような偏見を助長させかねません。しかも、子供の心理的負担の大きな要因である学校の在り方について法案に書いていないということは問題です。不登校の要因として条文に子供の心理的負担のみを例示しているその根拠は何なのでしょうか、お答えください。
法案提案者 衆議院議員・河村建夫君
先ほどの廣木参考人からもお話がございましたが、不登校児童の状況というもの、非常に複雑といいますか、奥が深いということであること、我々も共感を得ておるところであります。
 いずれにしても、現実に学校に行けない状況が御本人にある、そしてその原因を、これは表面的だという指摘もあるかも分かりませんが、そういう状況を調べてみると、いろいろな状況、周辺の状況を聞くと、やっぱり友人関係であるとか学校、それが起因するしないは別として、学業がなかなかうまくいかないとかいろいろな原因がある、やっぱり心の中にそうした不安をたくさん抱えておるということ、これが不登校状態の原因であるということだと思います。
 これをどう表現するかということで、心理的負担という言葉を使っておりますが、あくまでもこれは例示をしたと我々は考えております。具体的な定義においては、それ以外のいろいろなことがあると、御指摘いただいたようなことも踏まえて、その要因、背景、そういうものを十分考慮した上で、この言葉をもって、一応代表して、それを十分配慮した上でこれからの対応をしていくということは私は当然のことだというふうに思っております。
吉良よし子君
様々な要因があるのは当然というお話でしたけれども、それでも法案を見ると心の心理的な負担ということだけが例示されていると。
 文科省に伺うと、それは、児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査の中で、不登校のきっかけ、理由として、本人の不安の傾向があるということが多いという、そういう調査があったからだというお話もあったと聞いております。ただ、この調査の回答ですが、確かに見ると、不登校の要因として、不安などの情緒的混乱、無気力が五年連続一位、二位を占めているわけです。ただし、この結果は実態と大きく乖離していると問題視されているということは御存じでしょうか。何より、この調査の回答者というのは教職員のみになっているわけです。
 一方、その不登校の原因について、生徒自身が回答したという調査もあります。お配りした資料を御覧いただきたいと思うのですが、文科省の有識者会議である不登校生徒に関する追跡調査研究会が発表した不登校生徒に関する追跡実態調査がそれで、それについて内田良名古屋大大学院准教授がその調査を比較しているわけです。教職員の回答の中では、教職員との関係を理由とするものは一・六%となっているわけですが、生徒回答では二六・二%と十六倍もの開きがあるということをこの調査の中で内田さんが指摘されているわけです。まさに、これこそ子供の心の状態を理解していないという表れにもなるのではないでしょうか。そんなずれのあるような調査を基にして不登校児童生徒の定義を行うから、当事者の皆さんは本法案に命の危険を感じると立ち上がっていらっしゃるわけです。
 先日、いじめの放置から不登校になってしまった東京の女子中学生の親御さんからお話を伺いました。娘が嘔吐や腹痛に悩み、どうしていいのか分からないのに、校長先生からは、学校に通えないならこのフリースクールはどうですか、また、教育支援センターはどうですかと執拗に勧められると訴えを聞きました。これこそ、冒頭、廣木さんが指摘されたような、心の理解を伴わない支援による当事者にとっての新たな苦しみなのではないでしょうか。本法案の施行によって、こうした苦しみが更に広がるようなことはあってはなりません。
 提案者にまた伺います。
 お配りした資料の最後でも指摘されているように、当事者を原点にしないと対策は本人の思いと外れてしまい、かえって当事者を苦しめてしまうと、そういう点を本法案施行に当たって全国の学校関係者に周知徹底すべきと考えますが、いかがでしょうか。
法案提案者 衆議院議員・青山周平君
お答えをいたします。
 吉良先生がおっしゃられるとおり、当事者である子供を原点にした対策でなければならないというのは、私どもも同じ考えであります。
 そこで、不登校生徒の支援に当たっては、本人の意思を十分に尊重することが重要であると考えております。法案の基本理念においても、先ほど来お話がありますとおり、意思を十分に尊重する旨を定めております。さらに、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われることも重要であると考えており、同じく基本理念でその旨を定めております。
 提案者といたしましても、この法案の趣旨について政府において教育委員会等関係者に十分周知していただきたいと、そのように考えております。
吉良よし子君
本当に、当事者を原点にしないと本人が苦しむんだと、そういう点を是非とも通知して周知徹底するように強く求めて、次に移ります。
 本法案第十三条には、不登校児童生徒の休養の必要性について書かれております。しかし、不登校でない限り休養の必要性は認められていないのではないかというような危惧も寄せられているわけです。
 NPO法人フォロの山下耕平さんという方は、自殺にまで追い詰められる子供が後を絶たないのも、休むことができない学校の在り方にこそ一因があるとおっしゃっていて、誰もが安心して不登校できる学校、誰もが安心して休める学校こそが誰もが安心して通える学校なんだというふうにおっしゃいました。子供たちの現実に目を移せば、授業時数が最大限延ばされてしまい、塾や稽古事など忙しい生活に追われて抑うつ傾向が大人並みになっている、そういう調査結果もあるわけです。
 ここで提案者にまた伺います。誰もが安心して休める学校こそが誰もが安心して通える学校だというこの考え、共感を持って受け止めるお気持ちはあるでしょうか。
法案提案者 衆議院議員・富田茂之君
今、吉良委員がおっしゃったことは、立法チームの議論の中でも度々出てまいりまして、本当に休む必要が、大事だという議論をずっとしてまいりました。学校に通っている児童生徒の中にも、様々な理由で学校生活に困難を感じながら無理をして頑張って登校している児童生徒がたくさんいるというふうに立法チームでは考えております。
 それで、第八条におきまして、学校生活上の困難を有する児童生徒の個別の状況に応じて支援を行う学校の取組について、まず規定をさせていただきました。その上で、第十三条で不登校児童生徒にとっての休養の必要性を規定しておりまして、その趣旨を踏まえれば、例えば、児童生徒の状況によっては、いじめを受けている場合に無理をせず一定期間休んでもいいということも考えられます。第八条におきましては、そうした状況に応じて学校として必要な支援を行うケースなども考えられるところであります。
 提案者といたしましては、無理して頑張っている子供さんたちに、無理しなくていいんだよ、休んでもいいんだよ、そういうメッセージを届けていきたいというふうに考えております。
吉良よし子君
無理して頑張っている子供たちに、無理しなくていいというメッセージを出したいとおっしゃっていただきました。まさに、こういう誰もが安心して休める学校こそが誰もが安心して通える学校だというメッセージ、もう一日も早く政治の側から大きく周知徹底していただくように私は強く求めたいと思うわけです。
 最後に文科大臣に伺いたいと思いますが、本法案の附則の二は、政府に教育機会の確保等のために必要な経済的支援の在り方について検討を加えることを求め、附則の三で、三年以内に教育機会の確保等の在り方の見直しなどを求めているわけです。
 一つ目です。教育機会の確保等の「等」には、教育機会の確保ではない不登校の子供たちの命や葛藤への支援など、広範囲な支援が含まれているという理解をしてよろしいのかどうか。
 二つ目。附則の具体化に当たっては、当事者、関係者の意見をよく聞く必要があると思うわけです。先ほど、この法案作る際にはなかなか当事者の声が聞けなかった、聴取されなかったと、そういう話もありました。今もなお、本法案に反対、慎重審議を求める方々からの声は数多く寄せられているわけです。だからこそ、本法案の三年以内の検討に当たっては、不登校の子供や家族に関わる関係者、教員団体の意見など、多くの当事者、関係者の意見を十分に聞いて進めるということ、約束していただきたいと思うのですが、大臣、いかがでしょうか。
文部科学大臣・松野博一君
一つ目の経済的支援の在り方についてですが、その仕組みや対象も含め、法案成立後、文部科学省において検討してまいりたいと考えております。
 二つ目の御質問の法律施行後三年以内の検討に関してでありますが、附則の規定に基づき、この法律の施行の状況について検討を行う場合は、必要に応じ関係者の意見を聞いてまいりたいと考えております。
吉良よし子君
法案成立後に検討とか、必要に応じてとおっしゃいますけれども、やはり広範囲な支援というものは必要ですし、また当事者、関係者の声をよく聞くというのはもう絶対に避けては通れない、とりわけこの不登校に関して言えば、子供たちが本当に苦しんでいるわけです。命の危険にもさらされているわけです。だからこそ、しっかりと当事者の皆さんの声をよく聞いていただくこと、このことを強く求めまして、私からの質問とさせていただきます。
吉良よし子君
私は、日本共産党を代表して、義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案に反対の討論を行います。
 そもそも本法案は、議員連盟の場において、夜間中学、フリースクールへの支援をと検討されてきました。しかし、最終的には夜間中学の設置促進と不登校の子供たちへの対応を内容としています。性格の違う施策を一つの法案に盛り込むのではなく、課題をそれぞれに検討すべきであること、まず申し上げます。
 その上で、夜間中学は、日本語を学びたい外国人や様々な事情から改めて中学での学び直しを希望する既卒者らを応援する学校であり、その役割は重要です。しかし、全国八都府県に三十一校しかなく、設置されていても就学の機会が制約されている地域もあります。本法案により、都道府県ごとに協議会を設けることは夜間中学の開設の拡大、拡充につながることから賛同します。
 問題は不登校対策です。
 過度に競争的で管理的な学校から自らの心と命を守るための緊急避難や自己防護の手段として、多くの子供が不登校となっています。学校に行けない自分を責め、不安や緊張感にさいなまれ、命の危機にさらされている子供たち、必要なのはその心の理解を放置したままの不登校支援ではなく、不登校を生み続ける学校教育の在り方を根本的に改めて、子供の命を守り、心の理解を第一にした安心、安全な居場所や人間関係を確保することです。
 しかし、本法案は、不登校の子供の教育機会の確保、支援を言いながら、学校復帰を前提にした国の施策を正当化するものです。既に不登校ゼロ、半減などの数値目標の導入によって子供と親は追い詰められています。本法案で教育機会の確保を迫られれば更に傷つくことになるでしょう。
 一九九〇年代に、国は、不登校は誰にでも起こり得る、競争的教育もその一端となっていることを認めました。国連子どもの権利委員会からも、高度に競争的な学校環境が不登校などを助長している可能性があると懸念されています。にもかかわらず、本法案は学校の在り方について不問にしていることも問題です。
 以上のように、不登校の子供たちに真に必要な対策とは言えない、当事者の思いに逆行する本法案には賛成できないことを表明し、討論といたします。